第397章 良き婿

秋山泰成は歯を磨き終わったところで、洗面器を持ったまま立ち尽くした。明らかに面会者が来たことに驚いた様子だった。この世に彼の親族といえば、二人の娘しかいなかった。

鈴木之恵は既に彼との縁を切っていたため、面会に来る可能性があるのは秋山奈緒だけだと考えていた。前回の作業中の良好な態度で電話をかける機会を得て、娘の奈緒が無事に帰宅したことを知った。

そう考えると、秋山泰成は急いで洗面用具を置き、警察官について外に向かった。たった2分の道のりの間に、愛する娘に言いたい言葉が次々と浮かんでいた。

面会室の外で、藤田深志は深い色のスーツを着て、長身を誇るように立っていた。その気品ある雰囲気が際立っていた。

秋山泰成が喜び勇んで中から出てきた時、ガラス越しに藤田深志と視線が合った。

藤田深志の眼差しは冷たく、探るような様子で、上位者特有の強い威圧感が秋山泰成の胸を締め付けた。

「お婿さん、なぜあなたが?」

藤田深志は細長い目を細めた。

「秋山泰成、あなたは今まで何回本当のことを言ったことがある?」

秋山泰成は突然の質問に緊張して、乾いた唇を舐めながら、

「お婿さん、私があなたを騙したことなどありません。この義理の親子の縁をどれほど大切に思っているか。心を開いてお見せしたいくらいです。」

藤田深志は嘲笑うような目で秋山泰成を見た。確かにこの老人は大切にしているだろう。だが、それは自分の庇護を得るための大木としてだろう?

「秋山泰成、正直に答えなさい。之恵は本当にあなたの実の娘なのか?」

秋山泰成の顔が豚レバーのような色に変わり、数秒黙った後、感情的になって、

「お婿さん、それはどういう質問ですか。之恵が私の娘でなければ、あれほど丁寧に育て、高額な私立学校に通わせ、絵画教室にまで通わせたりしますか?」

秋山泰成は鈴木之恵への愛情を語ろうとしたが、思いつくのはそれだけだった。それらは普通の家庭でも子供に与える基本的な条件に過ぎないのに、彼の目には、それが鈴木之恵への父親としての愛情の証だと思っていた。

藤田深志は心が痛んだ。彼が心から大切に思う人が、どんな悲しい幼少期を過ごしたのか。義母が生きていた時はまだ人生に光があった。義母が亡くなった後、どうやって乗り越えてきたのか想像もできない。