秋山泰成は歯を磨き終わったところで、洗面器を持ったまま立ち尽くした。明らかに面会者が来たことに驚いた様子だった。この世に彼の親族といえば、二人の娘しかいなかった。
鈴木之恵は既に彼との縁を切っていたため、面会に来る可能性があるのは秋山奈緒だけだと考えていた。前回の作業中の良好な態度で電話をかける機会を得て、娘の奈緒が無事に帰宅したことを知った。
そう考えると、秋山泰成は急いで洗面用具を置き、警察官について外に向かった。たった2分の道のりの間に、愛する娘に言いたい言葉が次々と浮かんでいた。
面会室の外で、藤田深志は深い色のスーツを着て、長身を誇るように立っていた。その気品ある雰囲気が際立っていた。
秋山泰成が喜び勇んで中から出てきた時、ガラス越しに藤田深志と視線が合った。