第413章 人を愛する時、目は隠せない

鈴木由典は振り返って思わず罵った。

「このクソ野郎」

その声は車内の運転手にしか聞こえなかったが、藤田深志は馬鹿じゃない。彼の口の動きを見ただけで、良い言葉ではないことは分かった。

しかし彼は気にしなかった。この義弟はいずれ認めざるを得ないのだから。

藤田深志は鈴木之恵の部屋がどこにあるのか知らなかった。ただ彼女がこの高級住宅街の一軒に入っていくのを見ていた。彼は何とも言えない気持ちだった。ここでも彼女を見たり触れたりすることはできないが、彼女との距離が一歩近づいたような気がして、心が落ち着いた。

翌日、鈴木之恵は会社でデザイン部の朝会を終えた後、オフィスに座って高齢者向けの栄養補助食品を購入した。

おじいさまが東京都に来られたことを知り、当然挨拶に伺わなければならない。

朝、祖母に藤田家のおじいさまが東京都に来られたことを話し、仕事後に子供たちを連れて曾祖父に会いに行くと伝えた。

藤田家の者たちはこの二人の子供の存在を知っており、おばあさまも承知していた。京都府での鈴木之恵の生活を考慮し、おじいさまが彼女に示してくれた配慮に感謝して、おばあさまは二人の子供たちが曾祖父に会うことを許可した。

鈴木之恵は退社前に藤田深志に電話をかけた。

「これから伺おうと思うんですが、お仕事は終わりましたか?」

その時、藤田深志はオフィスの床から天井までの窓の前にいた。向かいのビルは鈴木之恵の会社で、しかも同じフロアだった。

彼は柏木正にオフィスを借りる際、彼女との距離をあまり離さないようにと要望を出していた。

柏木正がこれほど見事に要望を叶えてくれるとは思わなかった。この場所は採光も良く、オフィスも広々としており、立地は申し分ない。まさに理想的なオフィスと言えた。

「之恵、窓際に来て、向かいを見てごらん」

鈴木之恵は彼が建物の下にいると思い、デスクから立ち上がって窓際に行き、下を見たが彼の姿は見えなかった。藤田深志は電話で再び呼びかけた。

「向かいを見て、下じゃないよ」

鈴木之恵が顔を上げると、二人は空間を隔てて視線を合わせた。

「まさか向かいのビルを買収したんじゃないでしょうね?」

この状況に、鈴木之恵は自分が読んだ霊気総裁小説を思い出した。ヒロインの向かいのビルを買収するなんて、お金の力を持つ主人公ならではの行動だった。