藤田深志は彼女の方へゆっくりと歩み寄り、手からバスタオルを受け取って髪を拭いてあげた。
彼女の髪は量が多く、艶やかで、水滴が髪の先から彼の手のひらに落ちると、その冷たい感触は次の瞬間に熱に変わった。
彼は機械的に彼女の海藻のような黒髪を拭いていた。一本一本の髪が魂を持ったかのように、彼の心に突き刺さってくる。心の中は整理のつかない絡み合った想いで一杯だった。
「之恵……」
鈴木之恵がどんなに鈍感でも、彼の声に含まれた欲望の色を聞き取ることができた。それは情欲を帯びた魅惑的な声だった。
四年前に死んだはずの記憶が突然彼女を襲い、鈴木之恵の脳裏には無数の成人向けの光景が浮かんできた。数え切れないほどの熱い夜、彼が彼女を押し倒して、何度も何度も呼びかけた。
「之恵……」