第486章 誰一人も見逃さない

陸田詩子がそう言った時、藤田深志がドアを開けて入ってきた。

「陸田の所属タレントはスキャンダルだらけで、倒産も近いでしょうね」

陸田詩子は声を聞いて振り向いた。彼女の口は毒があり、何気ない悪口でも人に聞かれてしまう。

「藤田社長、私たちの陸田は兄の経営の下で順調ですよ。清水優紀なんてクズは兄が契約したわけじゃありません。むしろ契約解除したがっているんです。

言いたくはないんですが、藤田グループは本当にデザイナーを変えるべきですよ。スタイルが昔ほど良くありません。このままだと、ジュエリー業界での国内トップの座は、すぐに私の鈴木お姉さんのものになってしまいますよ。その時になって泣いても遅いですよ」

藤田深志は眉間にしわを寄せた。この女は彼の会社を呪っているのか。

「私と之恵は一心同体だ。将来的に会社を合併することだってありえる」

陸田詩子は彼を横目で見て、

「それはあなたの分不相応な望みですね。私の鈴木お姉さんはデザイン界の神様なんですから」

紳士は女性と争わないものだ。藤田深志は我慢した。中村慎はこの口の悪い婚約者をどうやって耐えているのだろう?

もう話したくなくなった。

陸田詩子はデザイン画を何度も隅々まで確認し、鈴木之恵とジュエリーの品質や種類について話し合った後、帰っていった。

やっと鈴木之恵の仕事が終わった。

藤田深志はソファから立ち上がり、

「之恵、何が食べたい?南国レストランで注文する?それとも家で作る?」

藤田深志は言いかけて一瞬止まり、

「やっぱり南国レストランにしよう」

階下で待機している二人のボディーガードのことを思い出し、藤田深志は考えた。鈴木由典が帰ったとたんに彼女を家に連れて帰ったら、鈴木由典は怒り死にするだろう。やっと築き上げた信頼関係も崩れてしまうに違いない。

鈴木之恵は彼の心の中を知らず、

「スープが飲みたいわ。あっさりしたのがいいな。それと北京風の小皿料理を何品か。辛くないものでお願い。この二日ほど体が熱っぽいの」

藤田深志は身を乗り出して彼女の顔を覗き込んだ。確かに鼻の横に小さなニキビができていた。

「私と君のお兄さんがついているんだ。何を心配することがある?誰が君に手出しできるというんだ?」

女優一人どころか、悪鬼が何人来ようと、彼と鈴木由典で彼女をしっかり守れる。