第485章 またあの犬野郎に拾われた

その時、藤田深志は手にミルクティーを持って車の前にもたれかかり、鈴木之恵が出てくるのを待っていた。まるで熱心な犬のような様子だった。

鈴木由典は顔を上げることもなく、運転手に直接指示した。

「前に進め」

鈴木之恵は携帯を握りしめながら、おそるおそる口を開いた。

「お兄さん、時間を作って一緒に食事でもどう?」

鈴木由典はタブレットを手に取り、マーケティング部から上がってきた最新の書類に目を通しながら、淡々と返事をした。

「時間がない」

時間があったとしても、藤田のやつめと一緒に食事をする気はなかった。

鈴木之恵はそれ以上言い出せなかった。彼女は体を横に向けてバックミラーを見ると、藤田深志の車が後ろを追いかけていた。

車がゆっくりと停止し、運転手が振り返って状況を報告した。

「鈴木社長、前方で事故があり、2キロほど渋滞しています。通過するのに40分ほどかかりそうです。午前中の菅原社長とのプロジェクト会議に間に合わなくなります。今から会社に引き返せばまだ間に合いますが、どうしましょうか…」

鈴木由典は腕時計を見上げ、眉間にかすかな皺を寄せた。渋滞がなければ、之恵を会社まで送ってから自分の会社に戻る時間はちょうど良かったのだが、このまま渋滞に巻き込まれては確かに時間が足りなくなる。

鈴木之恵は再び探りを入れるように尋ねた。

「お兄さん、先に行って。私はタクシーを拾うから」

彼女が拾うタクシーが何を意味するのか、鈴木由典は分かっていた。今は他に方法もなく、彼は顔を曇らせ、機嫌が悪そうだった。何も言わないことで、暗黙の了解を示した。

鈴木之恵はバッグを持ってドアを開けた。

「お兄さん、仕事に行って。私は先に行くね?」

鈴木由典は依然として口を開かなかった。またあのやつめに拾われることになってしまった。

鈴木之恵は藤田深志の車に乗り込むと、温かいミルクティーが差し出された。二人は前の車が渋滞している道を逆方向に向かって走り去るのを見ていた。

藤田深志は笑いながら尋ねた。

「お兄さんがまた僕の車に乗せてくれたの?」

鈴木之恵は手に持ったミルクティーを一口すすり、相変わらず濃厚なイチゴの味がした。

「お兄さんは午前中用事があって、間に合わなかったの。そうじゃなかったら、私を行かせるわけないでしょ?」