医者がドアを開けて出てきて、
「患者さんは両肺に感染があり、さらに水が溜まっている状態です。入院治療をお勧めします。ご家族の方、署名をお願いします」
藤田晋司が前に出て署名した。
藤田深志は医者の前に行って尋ねた。
「先生、祖父が眠れず、食事もろくに取れていないのですが、まずは一度ゆっくり眠らせる方法はありませんか?」
医者は眉をひそめ、
「休息は大切ですね。薬を処方しましょう。後で病室で注射をします。ご家族の方は付き添いをお願いします。食事は薄味にしてください。まずは入院手続きをお願いします」
藤田深志は入院手続きを済ませ、印刷された書類の日付を見て、今日は祖父のことで驚いて、鈴木之恵を迎えに行く約束を完全に忘れていたことに気付いた。
携帯を取り出すと、鈴木之恵からの不在着信が7件あった。
急いで電話をかけ直した。
「之恵、すまない。病院にいるんだ。今日は迎えに行けない」
「病院?どうしたの?」
「僕は大丈夫だよ。祖父が肺炎で入院することになった。今、入院手続きを済ませたところだ」
「おとといまで元気だったのに、急に肺炎になるなんて?」
鈴木之恵は携帯をきつく握りしめ、やっとの思いで尋ねた。
「あの日、私の家に来た後で具合が悪くなったの?」
藤田深志は少し躊躇してから答えた。
「違う、気にするな」
彼が躊躇した数秒で、鈴木之恵は答えを悟った。
「様子を見に行くわ。病室番号を教えて」
電話を切ると、すぐに藤田深志から住所が送られてきた。彼女は朝早く陶山蓮華から責め立てる電話を受けていた。本来なら彼の母親がまた面倒を起こしていることを伝えるつもりだった。
祖父の病気を聞いて、それらのことは胸にしまい込み、もう言及しなかった。
鈴木之恵は自分の車を運転して病院へ向かい、案内された住所に従って祖父の病室を探した。
彼女が到着した時、老人はようやく薬の効果で少し安らかに眠りについていた。
病室で数分過ごした後、藤田深志は彼女を廊下に連れ出してから話し始めた。
「之恵、仕事に戻ってくれ。ここは僕がいる。祖父が昨日、子供たちに会いたがっていたから、夜に迎えに行って二人を連れてくるよ」
鈴木之恵は祖父に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「祖父さんの食べたいものを聞いて。私が作って夜に持ってくるわ」