藤田深志はスリッパを床に投げ捨て、裸足で玄関まで歩いた。
祖父の部屋のドアは開いていて、部屋は暗かった。彼がドアの前で静かに立っていると、数秒後、お爺さんのかすれた声で呼ばれた。
「深志が帰ってきたのか?之恵と一緒に帰らなかったのはなぜだ?」
藤田深志は深く息を吸って中に入った。
「お爺さん、まだ起きてるの?」
お爺さんは手を伸ばしてベッドサイドのランプをつけ、体を動かして座り直した。
「年を取ると、あまり眠れなくなるんだよ。少し目を閉じるだけで十分だ」
藤田深志は感情的な人間ではなかったが、この瞬間、祖父の老いた姿を見て、思わず鼻が何度もつんとした。
灯りの下で、お爺さんの濁った両目がはっきりと見えた。長い間眠れていないかのように、極度の休息不足の様子だった。叔父の言う通り、その目は一日一晩も閉じていないかのようだった。
お爺さんがこんな苦労に耐えられるはずがない。
祖父を東京都に連れてきたのは療養のためだったのに、来てからずっと心配の種が絶えない。
「お爺さん、休んで。僕が見ているから」
お爺さんは笑って言った。
「私は子供じゃないんだから、お前に寝かしつけられる必要はないだろう?子供たちに会いたくなってね。之恵に明日、あの二人の小僧を連れてきて賑やかにできないか聞いてみてくれないか?」
藤田深志は頷いた。
「明日、放課後に二人を迎えに行きます。お爺さん、水が飲みたい?」
「少し飲もうかな」
藤田深志はコップを持って水を注ぎに行った。祖父と孫は例の件について誰も触れなかった。一方は聞くのを恐れ、もう一方は話すのを恐れ、まるでそんなことは起こらなかったかのように。
藤田深志は祖父の様子を見届けて自分の部屋に戻ると、陶山蓮華から電話がかかってきた。
「深志、なぜ叔父さんの電話を切ったの?叔父さんがお願いした小さなことをするのがそんなに難しいの?」
藤田深志は心の中で煩わしく感じ、良い口調で話す気にもなれなかった。
「母さん、叔父さんのそういう悪いことを甘やかすのはもうやめて。たかが数万円のために、それだけの価値があるの?」