結城暁は頷いた。「わかった」
彼の声は、いつもと変わらず落ち着いていて、少しの未練も感じられなかった。
「じゃあ、証明書は?それにお爺様のところも、全部考えてある?」
南雲泉は頷いた。「私が後でお爺様に話しに行きます。お爺様は私に渡してくれるはずです。一緒に行きますか?」
「ああ、一緒に」
朝食を済ませ、二人はそれぞれ必要なものを持って、車に乗って結城家の本邸へ向かった。
二人を見た瀬戸野と瀬戸恵はとても喜んだ。「若奥様、お爺様はこの二日間もあなたのことを気にかけていらっしゃいました。こんなに早く戻ってくださるとは思いませんでした」
「瀬戸野さん、お爺様はどこですか?」
「お爺様は二階で読書をなさっています」
南雲泉と結城暁は一緒に二階へ上がった。ドアの前で、南雲泉は彼を見た。「私が先にお爺様に話してきます。お爺様が同意して、証明書をもらったら、あなたに来てもらいます」
「わかった」
南雲泉が部屋に入ると、中は暗かった。
部屋全体が薄暗く、カーテンが固く閉められ、ベッドサイドの小さなランプだけが微かな明かりを放っていた。
なぜか、彼女の心に不吉な予感が走った。
「お爺様……」
「お爺様、泉です。来ました」
何度か呼びかけても、南雲泉は返事を聞くことができなかった。
ベッドの側まで行くと、お爺様がベッドに横たわり、目を閉じて眠っているのが分かった。
南雲泉は邪魔をしたくなかったので、黙って外で目覚めを待とうと思い、立ち去ろうとした。
しかし、振り返ったその時、結城お爺様の年老いた声が聞こえた。「坊や、来てくれたのかい?」
南雲泉はすぐに振り返って彼の手を取った。「はい、私です。お爺様、よく眠れましたか?」
「ここ数日、ずっとぼんやりと眠っていてね。もう十分だ。私を起こして少し歩かせてくれないか。そろそろ目を覚まさなければならない」
「はい、お爺様」
結城お爺様が起き上がると、南雲泉は上着を着せ、そばのソファーまで支えて座らせた。
窓の外で、突然小雨が降り始めた。しとしとと。
細かい雨が葉を打つ音が窓越しに部屋に届き、静かで、不思議と心が落ち着いた。
南雲泉はすぐにベッドサイドのスタンドを消し、カーテンを開けた。