「よろしい、お嬢さん。あなたがそう決めたのなら、おじいさんはあなたの決定を尊重しよう」
老人は手を伸ばし、震える指で近くの棚を指さした。「右の棚の一番下の引き出しに金庫がある。取り出しなさい」
「はい」
南雲泉は歩み寄り、慎重に棚から金庫を取り出し、おじいさんの前に持っていった。
「おじいさん、暗証番号は覚えていますか?」
「おばあさんの誕生日だよ」
「おばあさん?」この呼び方に、南雲泉は馴染みがなかった。この記憶も彼女にとっては空白だった。
なぜなら、彼女が結城家に入った時には、おばあさんはすでに病気で亡くなっていたからだ。
「暁は知っているはずだ。彼に開けてもらいなさい」老人は年老いた声で促した。
「はい、ありがとうございます」
金庫を抱えて、南雲泉は不安な気持ちを抱えながら部屋を出た。