第78章 あなたの心の中で、私は何なの？

彼が彼女の名前をこんなに優しく呼ぶことは滅多になく、謝ることも滅多にありませんでした。

南雲泉は認めました。彼女の心が揺らいでいたのです。

特に、彼が彼女を抱きしめ、耳たぶに軽く触れながら、柔らかく低い声で語りかけるとき、その情熱的な様子に、彼女の心はすっかり溶けてしまいました。

南雲泉は目を閉じ、自分の弱さを心の中で呪いました。

ただの一時的な優しさなのに、どうしてこんなにも心を奪われてしまうの？

これまでに起きたことを、全部忘れてしまったの？

泉よ泉、もう少し気丈に振る舞えないの？

「暁、一つ聞いていいかしら？」

「ええ」

「あなたの心の中で、私はどんな存在なの？」

「私の妻だ」結城暁は答えました。

こんなにも確信に満ちた、情熱的な答えなのに、なぜか南雲泉はその答えを聞いて胸が痛くなりました。