手の中の蒸しパンを見つめながら、南雲泉は目に涙が滲んできた。
蒸しパンはまだ温かく、手のひらに心地よい温もりを感じた。
幼い頃から、彼女は父親の愛情を一度も感じたことがなかった。
「父」という言葉は、彼女にとって呼ばなければならない呼称に過ぎず、それ以上の意味は何もなかった。
しかし、突然の親愛の情に触れたこの瞬間、自分もただの子供に過ぎないことに気づいた。誰もと同じように、温かい父の愛を求めていたのだ。
彼女の望みは大きくなかった。この小さな蒸しパンだけでも、十分満足だった。
目が赤くなってきた。
南雲泉は深く息を吸い、力を込めて小さな蒸しパンを口に入れた。
とても美味しく、子供の頃と同じ味がした。
彼女が一つ食べるのを見て、柏木邦彦はすぐに傍に立ち、おずおずと尋ねた。「娘よ、どう?美味しいか?」