第14章 彼女は興奮して離婚を待っている

夕食は楽しく過ごせたものの、食後は家族全員が沈黙してしまった。

高橋真子は戸籍謄本を手に入れることを期待していたが、皆の表情が急に暗くなったのを見て、思わず尋ねた。「どうしたんですか?」

誰も彼女に答えず、ただ上座に座って冷静な様子の老人を見つめていた。

老人は皆に見られるのに耐えられなくなり、ようやく目を上げた。「戸籍謄本はもう少し後で届くかもしれない。他にも用事があってね。数日遅れても大丈夫だろう?」

「……」

高橋真子は一時言葉を失った。

「そうよ!数日遅れても問題ないわ。私たちは家族なんだから、真子も再婚を急いでいないでしょう?」

藤原月の母親である大和田好美が高橋真子の手を握って尋ねた。

高橋真子は気まずそうに、しかし礼儀正しく微笑むしかなかった。

「真子、安心しなさい。あなたが誰を気に入っても、おばあちゃんが必ずおじいちゃんと一緒にその人を捕まえて、あなたの前に連れてきて夫にしてあげるわ。」

おばあさんも彼女に約束した。

高橋真子は本当に何も言えなくなった。相手がそこまで言うのだから。

藤原月を見ると、最初から最後まで無関係な人のように座っていた。

しかし、おばあさんが彼女を他人にやると言った時、藤原月はやはり顔を上げた。「おばあちゃん、まだ離婚していないんですよ!」

「どうせ離婚するんでしょう?」

おばあさんは孫のこの言葉を聞いても全く驚かない様子で、逆に彼に問いかけた。

藤原月は突然イライラし始め、顔を別の方向に向けた。

「このバカ息子、まだ離婚していないなんてよく言えたものだ。私もお前の父さんも一途な人間だったのに、うちの家系からどうしてお前のような恥知らずが出てきたんだ?」

老人は突然厳しい目つきで彼を見て怒鳴った。

藤原月は「……」

高橋真子も驚いて、老人が殴りかかりそうな勢いを見て思わず口を開いた。「おじいちゃん、私たちは円満に別れるつもりです。月のことを責めないでください!」

「聞いてごらん、お前は奥さんの心をどれだけ傷つけたのか、奥さんがお前をそんな風に呼ぶようになるなんて?」

おばあさんも我慢できずに続けて叱りつけた。

藤原月はもう何も言うことができなかった。どうせ毎回帰ってくると、必ず叱られるのだから。

高橋真子は今回は口を閉ざしたまま、これ以上話すと また文句を言われそうで怖かった。

「真子、今気に入っている人はいるの?おばあちゃんが言っておくわね、結婚は年齢の近い人と するべきよ。外の華やかな世界に目を奪われちゃダメよ、わかる?」

おばあさんは高橋真子の手を握りしめながら注意した。

「そうよ、あなたはテレビ局に入ったばかりだし、あそこは玉石混交だわ。あなたは綺麗だから、何をするにも気をつけないと。私たちのような家柄の者が、自分を汚すようなことはしたくないでしょう。」

大和田好美も友人から高橋真子に花を贈る人が多いと聞いて、注意して警告する必要があると感じた。

高橋真子は聞いて頷いた。「わかりました!」

藤原月は高橋真子が自分の家族の言うことをこんなにも素直に聞き入れるとは思わなかった。それは彼を少し嬉しくさせた。

しかしすぐに彼の携帯が鳴った。詩織からだった。

この番号は登録されていなかったが、一目で分かった。

そして彼の携帯が鳴ると、何百平方メートルもあるリビングは突然静まり返った。

彼は無意識に前の人々を見て、それから自ら立ち上がった。「外で出ます。」

「またあの女からだろう?今夜は彼女の電話に出てはいけない。」

老人はすぐに手の中のお茶碗を強く横に置き、命令した。

藤原月は彼を一瞥して、「彼女の体調のことはご存知でしょう。電話に出ないと、きっと余計なことを考えて体に良くないんです!」

「もう何年経った?体調が悪い、体調が悪いって、死んでもいないじゃないか!」

老人はまた言った。

「……」

高橋真子は横で聞いていて、本当に驚いた。こんな言葉を他人が言ったら、藤原月はきっともう手を出していただろう。

しかし今回、彼はただ携帯を握りしめただけで、何も反論せずに長い足で外に出て行った。

「もういい、もういい。この子はもう救いようがないな。真子、待っていなさい。戸籍謄本を持ってきてあげよう。」

「……」

皆が呆然とした。

さっき老人が戸籍謄本がまだ職場にあると嘘をついた時、皆はほっとしたのに、今また息が詰まりそうになった。

高橋真子はさらに意外だった。戸籍謄本が家にある?

おばあさんは自分の夫が立ち上がって行くのを見て、自分も少し動いたが、高橋真子が帰ってしまうのが心配で、離れたくない気持ちで葛藤していた。

「真子をこうして引き延ばすのも確かによくないな。彼女はまだ若いし、離婚したら良い恋愛もできるし、好きな人と結婚して、普通の生活を送れる。」

藤原月の父が突然口を開いた。

ソファーに座る三人の女性のうち二人が落胆した様子だった。

高橋真子は息を殺して、この時少し安堵した。

この家族は本当に彼女に対して言うことなしなほど良くしてくれて、あらゆる面で彼女を守り、彼女のことを考えてくれている。

高橋真子が藤原家を去る時、手に戸籍謄本を握り、心は興奮と緊張で一杯だった。

これで、彼らは離婚できるのだろうか?

彼女はその分厚い戸籍謄本を見つめ、帰りの車の中で一ページずつめくってみた。下の方を見ると、彼女のページが藤原月の上にあることに気づき、思わず心が温かくなり、戸籍謄本を胸に抱きしめた。

たとえ離婚しても、感謝の気持ちは忘れない!

藤原月はまだ病院にいた。医者が詩織の検査を終えて去り、詩織は眠りについていた。彼は一人で携帯を見ていた。

十時過ぎまで、彼の携帯が一度鳴った。

ベッドの人もそっと目を開けた。

「戸籍謄本、手に入れました!」

高橋真子が彼に送ったLINEには、戸籍謄本の写真とその五文字があった。

藤原月は携帯を握る手に力が入り、暗い瞳で携帯の写真を見つめた。

その瞬間、なぜか彼の心は混乱して、爆発しそうだった。

彼女はそんなにも急いで離婚したいのか?

好きな人でもできたのか?

あの木村清か?

たかがテレビ局の部長で、自分とどう比べられる?

彼女が何を考えているのか分からない、目が節穴なのか。

「月!」

ベッドの女性が弱々しく彼を呼んだ。

「月!」

二度目も彼は聞こえなかった。

詩織は起き上がり、弱々しく彼を見つめた。「月!」

藤原月は我に返り、振り向いた。「目が覚めたの!」

「私本当に重荷よね、いつもあなたに迷惑をかけて!」

詩織は少し頷いて、それから目を伏せて泣き始めた。

藤原月はため息をついた。「君は重荷じゃない。ただ仕事のことを考えていただけだ。」

彼は立ち上がってベッドの端に座り、彼女を慰めた。

「でも私がいなければ、あなたと真子さんは……」

「僕と彼女はどうあっても無理だ。君も分かっているはずだ。余計な想像はやめてくれ!」

「でもおじいちゃんもおばあちゃんも、あなたたちの離婚を望んでいないわ。」

詩織は泣き続けた。

「高橋真子はもう戸籍謄本を手に入れた!」

藤原月は言った。

「え?本当?」

詩織は顔を上げ、あんなにも可憐な目で彼を見つめ、希望に満ちていた。

藤原月は喉が詰まった。

本当だ!

あの小娘は今、興奮して彼との離婚を待っている。

この女性も彼との結婚を待っている。

では、彼は?