高橋真子は彼が何をしようとしているのか分からなかったが、ただ押されるままに階段を降り、一台のランドローバーの前まで来た。
「お前の主人をちゃんと病院まで送れ。他の件は後日改めて清算する」
藤原月はそう言って詩織を車に乗せ、ドアを閉めると大股で高橋真子の方へ向かった。
高橋真子はそこで初めて、藤原月が詩織の部下がここにいることを知っていたことを知った。
高橋真子は実は最初は気にしていなかった。
詩織は彼女に藤原月と離婚してほしいだけで、離婚さえすれば詩織は彼女につきまとうことも、彼女を探すこともなくなるはずだった。
しかし藤原月が彼女の前に来て、また彼女の手を掴んだ。「行くぞ!」
「手を掴まないで、自分で歩けます!」
高橋真子は前に進まず、ただ彼に注意を促した。
藤原月は彼女を見つめ、すぐに彼女を抱きしめた。「まだ離婚していない」
彼は強引に彼女を自分の車に乗せた。
詩織はランドローバーの中から二人が車で遠ざかっていくのを見て、思わず胸が締め付けられた。
彼は本当に彼女をこうして置き去りにして、別の女と一緒に彼のおばあさんに会いに行くのか?
彼の心の中に、本当に小林詩織の居場所はあるのだろうか?
「詩織さん、行きましょうか?」
「あの人たちを追って!」
諦めきれない、どうしても諦められない。
高橋真子と藤原月が病院に着くと、おばあさんはVIP病室で点滴を受けながら、おじいさんが買ってきた缶入りの八宝粥を美味しそうに食べていて、二人は呆然とした。
高橋真子は信じられない様子のおばあさんを見て、思わず尋ねた。「おばあさま、気を失われたんじゃ?」
「まあ、気を失っても目が覚めるものよ。おばあさんにずっと寝ていてほしいの?」
おばあさんは食べながら彼女に尋ね、まるで子供のようだった。
藤原月はおじいさんを見て、それから自然と頭を下げた。
この時、病室には老夫婦以外誰もおらず、どういう状況なのか一目瞭然だった。
おじいさんは孫に向かって眉を上げ、それから怒りを抑えている孫嫁を見て言った。「真子や、戸籍謄本をおじいさんに返してくれないかな?おじいさんはまた出張があって、使う必要があるんだ」
「でも……」
高橋真子は驚いた。まだ離婚していないので、当然藤原家の戸籍から抜けていない。このまま戸籍謄本を返すなんて。