第46章 末期がんで自暴自棄に酒を飲みに行く?

「彼女には自分の未来があるはずだ!」

藤原月は突然冷たく言い放った。

佐藤正臣には理解できなかった。死を目前にした人間が、どんな未来があるというのか?

——

その時、高橋真子は木村清から電話を受けた。木村清は何かを話した後、彼女に尋ねた。「私を信じてくれる?」

「信じるわ!でも清、彼女は確かに末期がんなの!」

高橋真子は木村清が嘘をつくはずがないと知っていたが、藤原月もそんなことで離婚を迫るはずがなかった。

「じゃあ、彼女が酒を飲みに行ったのは、自暴自棄になっていたから?」

木村清は自分のマンションのリビングに立ち、突然その女性に対して強い疑念を抱いた。

「そうかもしれないわね!」

高橋真子は考えた。他に理由はないはずだと。

詩織はきっと長期間の食事制限があり、医師は刺激物を摂取することを禁止していたはずだ。だから、みんなに内緒で飲みに行ったのかもしれない。

今日、藤原月との離婚も上手くいかなかったし。

高橋真子は納得すると、もう余計なことは考えないことにして、木村清との電話を切り、シャワーを浴びて寝ることにした。

——

翌朝早く、誰かが彼女の家のドアをノックした。高橋真子は時間を確認してから、ドアを開けに行った。

背の高い痩せた人影が見えただけで、何も言わずに、バケツを持ち上げて彼女に向かって振りかざした。

高橋真子は何が起きたのか見えなかったが、反射的に横に避けた。

バケツの中身は床に撒き散らされ、彼女の足にも飛び散った。

その後、刺激的なペンキの臭いが漂い、高橋真子は信じられない思いで相手を見つめた。

男は失敗を悟り、今度はバケツを彼女の体に被せようと近づいてきた。

高橋真子は頭上に迫る銀色のバケツを見て、目の前が真っ暗になった。

「きゃあ!」

男は突然後ろから強く蹴られ、床に撒かれた赤いペンキの中に顔から倒れ込んだ。

高橋真子は胸を押さえ、すでに顔面蒼白になっていた。

助かったと気付いた時に振り向くと、目に入った人物に思わず安堵のため息をついた。「藤原月!」

藤原月は深刻な表情で彼女の前に歩み寄った。「怪我はないか?」

高橋真子は呆然と首を振ったが、すでに目まいがして何も見えなくなっていた。

しかし、その男はすぐに立ち上がり、一目散に逃げ出した。