第155章 動かないで、怪我してるから

横に置いてある傘立てが誤って倒れた。

木村清は物音を聞いて、すぐに中へ駆け込んだ。

高橋真子は両手で必死にその男が彼女の手首に当てているナイフを掴み、ドアが開く音を聞いて必死にうめき声を上げた。

木村清が振り返ると、黒い革ジャンを着た痩せた背の高い男が、キャップとマスクを着用し、ナイフで高橋真子の首を切ろうとしているのが見えた。

「動くな」

木村清は思わず叫んだ。

高橋真子はこの瞬間、この男が自分の命を狙っていることを明確に理解した。理不尽な相手だ。そこで男が木村清を警戒している隙に、足を上げ、7センチのヒールで男の足を思い切り踏みつけた。

男はメッシュのスポーツシューズを履いていて、どの指が踏み折られたのかは分からなかった。

木村清は男が痛みで身をかがめるのを見て、すぐにブリーフケースを男めがけて思い切り投げつけた。