第155章 動かないで、怪我してるから

横に置いてある傘立てが誤って倒れた。

木村清は物音を聞いて、すぐに中へ駆け込んだ。

高橋真子は両手で必死にその男が彼女の手首に当てているナイフを掴み、ドアが開く音を聞いて必死にうめき声を上げた。

木村清が振り返ると、黒い革ジャンを着た痩せた背の高い男が、キャップとマスクを着用し、ナイフで高橋真子の首を切ろうとしているのが見えた。

「動くな」

木村清は思わず叫んだ。

高橋真子はこの瞬間、この男が自分の命を狙っていることを明確に理解した。理不尽な相手だ。そこで男が木村清を警戒している隙に、足を上げ、7センチのヒールで男の足を思い切り踏みつけた。

男はメッシュのスポーツシューズを履いていて、どの指が踏み折られたのかは分からなかった。

木村清は男が痛みで身をかがめるのを見て、すぐにブリーフケースを男めがけて思い切り投げつけた。

高橋真子はすぐに逃げ出したが、ナイフは彼女の首に一筋の傷を付けた。

木村清は地面の傘を拾って高橋真子を後ろに庇い、男は眉をひそめ、ナイフを二人に向けながら、目に焦りの色を浮かべ、一歩一歩後退して出て行き、ドアを閉めて遠くへ走り去った。

高橋真子は突然、足の力が抜けて地面に崩れ落ちた。

木村清は振り向いて「大丈夫か?」と聞いた。

高橋真子は彼を見上げ、必死に首を振った。

木村清は明かりをつけ、また彼女の元へ戻り、彼女の前にひざまずいて首の傷を確認した。危機は脱したものの、首には4センチほどの切り傷があり、血が流れ出ていて、彼の心臓は急激に乱れ始めた。

「動かないで、怪我してる」

——

30分後、高橋真子の首の出血は止まり、木村清は薬を塗ってガーゼを貼った。「しばらく水に触れないように」

「はい」

高橋真子は頷いて答え、また彼を見つめた。

その瞬間、彼女の目は熱くなった。彼があんなにも躊躇なく飛び込んできてくれたことに。もしあの男が人殺しの狂人だったらどうするつもりだったのだろう?

木村清はそんなことは気にせず、周囲を見回して決断を下した。「ここはもう安全じゃない。今夜はホテルに泊まろう」

「はい」

もちろん、命より大切なものなどない。

高橋真子はホテルに移り、木村清の部屋の隣に泊まった。