「江口桜子、頭がおかしくなったの?今のあなたの彼氏は藤原一郎でしょう。私じゃないわ。昔みたいに何でも許してくれると思ってるの?」
私は冷笑いを浮かべ、彼女の抱擁を避けながら眉をひそめて言った。「現実を見なさい。あなたのような女性とは付き合えない」
「ダーリン、まだ怒ってるのね。あれは単にあなたが私を愛してるかどうかを試したかっただけよ。実は藤原一郎とは何もなかったの。彼に触らせたこともないわ。もう一度チャンスをください。これからは一途にあなただけを見つめると約束します」
江口桜子は唇を尖らせ、目に涙を浮かべた。認めざるを得ないが、江口桜子の容姿は非常に人を欺くものだった。清純で可愛らしく、この表情をすると、かなり可哀想な雰囲気を醸し出す。以前の私なら、きっとこの表情に惑わされていただろう。しかし今は、ただ吐き気を催すだけだった。
「江口桜子、誰に見せているつもりなの?はっきり言うけど、私たちはもう終わりだ!」
「ダーリン!」
江口桜子が私の手首を掴んだとき、彼女の腕の青あざが目に入った。それが江口大輔の仕業だということは容易に想像がついた。あいつは仕事は熱心にこなすし、世渡り上手だが、紛れもない人でなしだ。田舎から大都会に来てから、良いことは何も学ばず、賭博や酒色にばかり精通している。今は収入がなくなり、当然遊興費も払えない。江口大輔は腹の立ちを全て江口桜子にぶつけているのだろう。
「ダーリン、私...」
「すみません、お二人の邪魔をして。若山田社長、本日新宿への出張がございまして、このままですと飛行機に乗り遅れてしまいます」
現れたのは他でもない、私の秘書の関口美咲だった。
「あなた誰?」
江口桜子はすぐに警戒して関口美咲を見つめ、眉をひそめて言った。「どこの家の小三なの?あなたの親は他人の彼氏に近づかないように教えなかったの?」
関口美咲が馬鹿を見るような目つきをしているのを見て、私は我慢できなくなった。江口桜子を突き放し、冷たく言った。「江口桜子、加減を知りなさい。関口美咲は私の秘書で、私の仕事のスケジュール管理を任せている。無知なのはいいけど、そこまで無知であってはいけない」
「知らないわ!私たちが付き合っているんだから、あなたは他の女性から離れるべきよ。ダーリン~私、嫉妬しちゃうわ!」