第3章

山田甘奈の言いよどみに、私は思わず心配になってきた。高橋一行に何かあったのではないだろうか?

心の中の不安がほとんど実体化しそうなほどで、部屋着姿のままであることも気にせず、鍵を掴んで急いでダークバーへ向かった。

道中、見知らぬ人々の驚いた視線に恥ずかしさを感じ、穴があったら入りたい気分だったが、高橋一行のことが気がかりで、そんなことも気にしていられなかった。

ダークバーに入るなり、私は急いで山田甘奈を探し出し、尋ねた。「一行さんは?彼はどうしているの?」

山田甘奈は私が部屋着姿で駆けつけたのを見て、少し驚いた様子で、私には理解できない感情が彼女の目にさらに濃くなった。彼女は私が焦っているのを知っていたので、多くを語らず、私の手を引いて2階の個室へと向かった。

来る途中、高橋一行に何か起きた場面を数え切れないほど想像したが、急いで駆けつけた先で目にしたのは、高橋一行が誰かと熱烈なキスをしている光景だった。

私の到着は明らかに部屋の熱く騒がしい雰囲気を乱してしまい、中にいた数人が不愉快そうな表情で私を見た。

「サービスは必要ないって言ったのに、あなたたちは...」聞き取れないのか?話しかけてきたのは、高橋一行の親友だった。

私だと気づくと、彼は表情を変え、慌てて立ち上がって私の視界を遮ろうとした。「お嫂さん、どうしてここに?」

私は答えず、ただそこに立って、静かに高橋一行を見つめていた。

7年間共に過ごしたこの男は、私に他人とのキスを目撃されても、私が入室した時にほんの一瞬慌てただけだった。

「一行さん...」私の声は震えていた。目の前の少し見知らぬような人を見つめながら、涙が自然と溢れ出した。

私は彼を問い詰めたかった。なぜ私を騙したのかと叫びたかった。でも口を開くと、ただ心の痛みだけが溢れた。

「一行くん、この方は?」高橋一行の隣にいた女の子は私を一瞬見つめ、驚いた兎のように、潤んだ目で高橋一行を見上げ、甘えた声で言った。「私、何か悪いことしちゃった?」

高橋一行の瞳に心配の色が浮かび、彼は優しく女の子の鼻先を軽くつついた。その声音には私が今まで聞いたことのない愛情と思いやりが込められていた。「バカだな、何でも自分のせいにしないで。ちょっと待っていて、すぐに片付けるから。」

「どうしてここに来たんだ?しかもこんな格好で?」高橋一行は私を個室から引っ張り出し、先ほどの優しさはどこにも見当たらず、むしろ冷たい口調だった。

「私は...」私はほとんど反射的に説明しようとしたが、彼の目に浮かぶ冷たさを見て、説明の言葉は喉元で飲み込んでしまった。

胸が針で刺されるように痛んだ。

「聞いているんだぞ?」高橋一行は私の返事を少し待ったが、私がまだ口を開かないのを見て、眉間に不快感を滲ませ、その声にも明らかな苛立ちが混じっていた。

これが彼が怒り出す前兆だということを、私は知っていた。

きっと、今日の私の突然の訪問が彼の楽しい時間を台無しにしてしまったのだろう。

「なんでもないわ、たまたま通りかかっただけ。」そう言って、私は山田甘奈の手を引いて、慌てて立ち去った。

山田甘奈はほとんど怒り狂いそうだった。私のこんな情けない態度を見るに耐えられず、バーを出るなり、憤慨して叱責した。「優花、あなた上がって行って、彼の頬を思いっきり叩くべきだったわ!」

心の中の悲しみは抑えきれず、私は山田甘奈に抱きついて、涙が止まらなかった。口を開けば泣き声ばかりが出てきた。

私は自分が弱すぎることを知っていた。上がって行って、徹底的に争うべきだった。

でも、それは結局、私が青春のすべてを捧げて愛した人なのだから。