第17章 自己愛は病気だ、治療が必要！

渡辺大輔は必死に思い出そうとした。あの日、彼は市内の重要な会議に出席し、終わってから関口美子から電話があり、酔っ払ってしまったと言われ、仕方なく迎えに行くことになった。

本来なら余計な世話を焼きたくなかったが、関口家の面子は立てなければならなかった。結局、関口美子を見つけた途端に吐かれてしまい、渡辺大輔は仕方なく最寄りの浴場に連れて行った。彼が風呂から出てきたとき、関口美子は半分酔いが覚め、バスローブ姿で謝罪してきた。渡辺大輔は良い顔一つせず、説教をして追い返した。

「渡辺社長、これについて釈明しなくていいんですか？」岡山洋子が尋ねた。

渡辺大輔はタブレットをスクロールしながら、一つ一つのコメントが目に突き刺さるように感じた。彼の表情は「ラニーニャ現象」のように冷たくなり、岡山洋子は思わず身震いした。

「これらの写真は、どこから出てきたんだ？」渡辺大輔は問い返した。根本的な原因を追究し、問題の源を見つけて解決しなければならない。今や彼を非難しないコメントは一つもなく、この炎上の流れは完璧に仕組まれていた。

岡山洋子は唾を飲み込んで言った。「ドラゴンキング・エンターテインメント株式会社です。写真は彼らが提供し、大量の工作員を雇っただけでなく、記事の買収にも相当な金額を使ったようです。」

「バン！」

渡辺大輔は拳でタブレットを叩き壊し、顔は氷のように冷たくなった。「すぐにドラゴンキングに連絡を取れ。全ての記事を即刻撤回するよう要求しろ！」

「すぐに対応いたします！」岡山洋子は答えた。彼女の体は冷や汗でびっしょりと濡れていた。一瞬、渡辺大輔が人を食いそうな勢いだと感じた。

「待て！」突然、渡辺大輔が叫び、岡山洋子は驚いて、ハイヒールがぐらつき、転びそうになった。岡山洋子は渡辺大輔を見つめ、どんな指示が来るのか分からなかった。

渡辺大輔は両手を机に置き、冷たく言った。「この件は君に任せるのは止めた。他の仕事を続けてくれ。」

岡山洋子は気になったものの、頷いて急いでドアを開けて出て行った。もう部屋にいられなかった。いつ死んでしまうかもしれないような感覚で、渡辺大輔と一緒にいるのは恐ろしすぎた！

引き出しを開け、埃をかぶった携帯電話を取り出すと、渡辺大輔は歯を食いしばって電源を入れ、電話をかけた。この携帯電話は一度も使ったことがなく、中には一つの番号だけが保存されていた。それは前妻の野村香織の携帯番号だった。

……

「あれ、どうして彼からの電話？出ない？」テーブルの上で鳴っている携帯電話を見て、小村明音が尋ねた。

野村香織はバナナの皮をむき、軽く一口かじった。「出たければ出てよ、私は時間ないから。」

心地よい着信音が鳴り続け、小村明音は心配そうに言った。「やっぱり出た方がいいんじゃない？あの木頭が怒ると本当に怖いわよ。」

野村香織は笑って、バナナの皮をゴミ箱に投げ入れた。「普段は一番彼のことを罵っているくせに、いざという時に怖気づくなんて。彼は私の元夫であって、あなたの元夫じゃないでしょう。何を怖がることがあるの？」

「違うわよ、私は彼のことなんて怖くないわ。ただ、これを機会に思い切り彼を罵って、この三年間の鬱憤を晴らせばいいと思っただけよ。」小村明音は落ち着いたふりをして言った。

野村香織は口角を上げ、彼女を見透かしたように携帯電話を差し出した。「じゃあ、あなたが出れば？」

小村明音は慌てて後ずさりし、苦笑いを浮かべた。「香織ちゃん、彼はあなたの元夫なんだから、やっぱりあなたが出た方がいいわ。私が出るなんておかしいでしょう？」

「もしもし、どちら様でしょうか？」野村香織はもう彼女をからかうのを止め、電話に出た。わざと知らない番号のふりをしたが、実際には渡辺大輔の電話番号は魂に刻み込まれていた。

電話の向こうで、渡辺大輔の呼吸が止まった。野村香織が自分の名前を呼ぶと思っていたのに、瞬間的に胸が詰まるような痛みを感じた。

「渡辺だ。ネット上の写真は君が暴露したのか？」怒りを抑えながら、渡辺大輔は問いただした。

「あぁ、あなたですか。そう言うなら、そうかもしれませんね。」野村香織は無関心そうに答え、声は水のように穏やかだった。

渡辺大輔は肺が爆発しそうな気分だった。他人がこんな態度や口調で話すのが最も我慢できなかった。まるで大量の侮辱を受けたかのようだった。

「私を盗撮させたのか？」渡辺大輔は尋ねた。そう聞いたのは、関口美子の自撮り以外に、誰かが撮影した写真が十数枚あったからだ。

野村香織は笑った。冷たい笑いを浮かべながら、イチゴを一つ口に入れた。「ふん、渡辺社長、アドバイスですが、鏡を見た方がいいですよ。自己愛は病気ですから、治療が必要です！」

言葉が終わらないうちに電話は切れ、野村香織は赤い唇を開いて、ブドウの種二つを吐き出した。

小村明音は思わず拍手し、人の不幸を喜ぶように笑った。元夫への怒りの反撃、このドラマを見るのは最高に気持ちよかった。

野村香織は笑って言った。「どう？姉貴かっこよかった？」

小村明音は親指を立てた。「さすが！」

……

嘉星グループ。

渡辺大輔は鏡の中の自分を見つめ、拳でガラスを叩き割った。野村香織の言葉に、オフィスを破壊したい衝動に駆られた。

「渡辺社長、お手は大丈夫ですか？」岡山洋子は心配そうに尋ねた。もう用事は終わったと思っていたのに、十分も経たないうちに呼び戻され、部屋に入るなり渡辺大輔が物を壊しているのを目にした。

「ドラゴンキングに直接行ってくれ。責任者に会って、即刻この件の操作を停止するよう要求しろ。さもなければ、彼らが破産するまで訴訟を起こす！」渡辺大輔は怒鳴った。

「はい、すぐに参ります！」岡山洋子は答え、身を翻して去っていった。