関口美子が悔しそうに泣き、何か言いたそうにしている様子を見て、野村香織はまた彼女に拍手を送りそうになった。この演技は絶妙で、小村明音のような人気女優でさえ及ばないほどだった。
渡辺奈美子は顔を引きつらせた。まさか兄の渡辺大輔が自分を助けてくれないとは思わなかった。心の中では腹が立ったが、兄に対して何も言えず、ただ関口美子の側に行って彼女を支えることしかできなかった。
「関口姉さん、兄は見ていなかったけど、私が見ていたから大丈夫です。いつでも証人になれますよ。それに、さっきここにいたのはあなたたち二人だけでしょう?彼女が押したんじゃなければ、風に吹き飛ばされたとでも言うんですか?」渡辺奈美子は慰めながら言った。彼女は諦めきれず、まだ野村香織に罪をなすりつけようとしていた。
「ふふ、いいわ。認めましょう。私が彼女を押したのよ!」芝居が佳境に入ったところで、野村香織は興味を失い、あっさりと認めてしまった。
「えっ……」会場が騒然となった。誰も野村香織が認めるとは思っていなかった。誰だって、たとえ自分がやったことでも、死ぬまで認めないはずだった。
野村香織は周りを見回し、人々と視線を合わせた。息を呑むほど美しい瞳は自信に満ちた輝きを放っていた。罪悪感どころか、むしろ笑みさえ浮かべていた。
プールの水面がきらめき、波紋が野村香織の体に映り、彼女の姿を一層美しく引き立てていた。全身濡れていても、独特の魅力があった。完璧なスタイルと、人々を魅了する美貌に、多くの人が見とれてしまい、中には自分も彼女に突き落としてほしいと願う男性さえいた。
渡辺大輔は眉をひそめ、驚きの表情が一瞬顔をよぎった。横を向いて野村香織を見つめ、理解しがたい感情が胸に込み上げてきた。関口美子と渡辺奈美子は目を合わせ、お互いの目に信じられない表情を見た。人を冤罪に陥れる者は、冤罪を受けた者よりも、どれほど不当なのかをよく知っている。野村香織の認めかたは常識外れで、彼女たちを驚かせた。
この女は何をしようとしているのか、気が狂ったのだろうか?
野村香織は渡辺大輔と再び目が合い、すぐに視線を外して関口美子の方を向いた。「関口さん、私があなたを突き落とした理由を知りたいですか?」