第32章 自己に酔いしれて生きてるの、疲れないの?

男として、彼は若く、恋愛経験もなかったが、渡辺大輔の目つきから強い嫉妬心を読み取ることができた。しかし、それは今は言えないことだった。渡辺大輔と野村香織の間で何が起きたのか、どれほどの愛憎劇が絡み合っているのか、誰にもわからないのだから。

レストランの入り口。

渡辺大輔は両手をポケットに入れ、無表情で向かいの駐車場を見つめていた。野村香織は両手を後ろで組んで彼の後ろに立ち、軽く咳払いをした。

「渡辺社長、私に何か用でしょうか?」野村香織が尋ねた。

渡辺大輔がゆっくりと振り向くと、二人の視線が空中で交差した。野村香織は心の中で溜息をつく。渡辺大輔はいつも通りかっこよく、はっきりとした顔立ちで、黒く深い瞳は渦巻きのように人を引き込む。この瞬間、彼女は高校時代のあの夜に戻ったような気がした。