第32章 自己に酔いしれて生きてるの、疲れないの?

男として、彼は若く、恋愛経験もなかったが、渡辺大輔の目つきから強い嫉妬心を読み取ることができた。しかし、それは今は言えないことだった。渡辺大輔と野村香織の間で何が起きたのか、どれほどの愛憎劇が絡み合っているのか、誰にもわからないのだから。

レストランの入り口。

渡辺大輔は両手をポケットに入れ、無表情で向かいの駐車場を見つめていた。野村香織は両手を後ろで組んで彼の後ろに立ち、軽く咳払いをした。

「渡辺社長、私に何か用でしょうか?」野村香織が尋ねた。

渡辺大輔がゆっくりと振り向くと、二人の視線が空中で交差した。野村香織は心の中で溜息をつく。渡辺大輔はいつも通りかっこよく、はっきりとした顔立ちで、黒く深い瞳は渦巻きのように人を引き込む。この瞬間、彼女は高校時代のあの夜に戻ったような気がした。

「もし、あの時もう少し頑張っていれば、もしかしたら...馬鹿げている。どうしてこんなことを考えるのかしら。私たちはもう離婚したのに。過去は過去として置いておくべきよ。人生には、一度逃してしまったら二度と戻れないものがあるのだから」野村香織は軽く首を振り、頭の中の雑念を振り払った。

再び渡辺大輔を見上げると、野村香織は淡い笑みを浮かべた。最近は会社に頻繁に行くようになり、様々なベテラン俳優や若手イケメンを見る機会が増えたせいか、渡辺大輔のこの端正な顔立ちも、特別際立って見えなくなっていた。

「野村香織、君の賢さを褒めるべきか、それとも単純さを笑うべきか。毎日若手俳優たちと芝居を打って、私の注意を引こうとしているのか、それとも私を怒らせようとしているのか。今日ははっきり言っておくが、君のやっていることは全く意味がない。なぜなら、私は君のことなど全く気にしていないからだ」渡辺大輔は嫌悪感を露わにして野村香織を見ながら警告した。

野村香織は一瞬驚いた。渡辺大輔の最初の言葉がこれだとは思わなかった。心が一瞬で凍りついた。こんなことになるなら、最初から外に出てくるべきではなかった。

野村香織は嘲笑いながら言った。「おかしいわね。私を呼び出したのは、そんなことを言うためなの?渡辺大輔、目を覚ましなさい。自己愛に浸って生きているけど、疲れないの?」