「あの……」青木翔は首を縮め、もう渡辺大輔に近づく勇気はなかった。
30分が経過し、野村香織は静かに座っていた。終始渡辺大輔を一目も見ず、目の端にも入れなかった。しかし、渡辺大輔の方が我慢できなくなり、彼女の方を向いて見つめた。
誰でも近距離で見つめられれば気配を感じるものだ。まして渡辺大輔の冷たい視線であれば尚更だ。授賞式に集中していた野村香織は、無意識に彼を一瞥したが、すぐに授賞式に目を戻した。
渡辺大輔の表情は極めて暗かった。彼には分かっていた。野村香織は彼のことを全く気にかけていない、というより、心の中から完全に消え去っているのだ。離婚前とは全く違っていた。しかも離婚後、多くの真相は彼女が思っていたようなものではなかった。
例えば、野村香織は彼のお金目当てではなく、一銭も使っていなかった。また、彼も野村香織のことを全く好きではないわけではなかった。さらに、野村香織はドラゴンキング・エンターテインメントの社長であり、サマーさんの秘書でもあった。そのほかにも、様々な面で誤解があまりにも多すぎた。