「あの……」青木翔は首を縮め、もう渡辺大輔に近づく勇気はなかった。
30分が経過し、野村香織は静かに座っていた。終始渡辺大輔を一目も見ず、目の端にも入れなかった。しかし、渡辺大輔の方が我慢できなくなり、彼女の方を向いて見つめた。
誰でも近距離で見つめられれば気配を感じるものだ。まして渡辺大輔の冷たい視線であれば尚更だ。授賞式に集中していた野村香織は、無意識に彼を一瞥したが、すぐに授賞式に目を戻した。
渡辺大輔の表情は極めて暗かった。彼には分かっていた。野村香織は彼のことを全く気にかけていない、というより、心の中から完全に消え去っているのだ。離婚前とは全く違っていた。しかも離婚後、多くの真相は彼女が思っていたようなものではなかった。
例えば、野村香織は彼のお金目当てではなく、一銭も使っていなかった。また、彼も野村香織のことを全く好きではないわけではなかった。さらに、野村香織はドラゴンキング・エンターテインメントの社長であり、サマーさんの秘書でもあった。そのほかにも、様々な面で誤解があまりにも多すぎた。
数時間見続けて、野村香織は欠伸をしながら、最初は新鮮に感じていたが、今では段々と退屈になってきた。様々な大小の芸能人、人気スター、トップスターたちが、ノミネートされたり、登壇して賞を受け取ったり、賞を贈呈したりしていた。
小村明音の見立ては正確だった。彼女は確かに各賞にノミネートされただけで、最優秀女優賞の栄冠は岡山美央子が手にした。授賞式全体を見終えて、野村香織の評価は「全て出来レース」というものだった。
熱気あふれる音楽の中、3年に一度のスターライト・セレモニーは幕を閉じた。野村香織が会場を出ようとした時、スタッフに止められた。「野村さん、お待ちください。式典の慣例により、あなたのような特別招待ゲストはメディアのインタビューを受けていただく必要があります。ご協力をお願いします。」
野村香織は無名ではあったが、最近ネット上で最も話題のゲストであり、時々ニュースを起こしてトレンド入りしていた。そのため、彼女が招待ゲストの中にいると知った各メディアは、彼女にインタビューしたがっていた。
ビッグマウスメディア:「野村さん、このような式典に参加されるのは初めてですか?スターライト・セレモニーについてどのような感想をお持ちですか?」