野村香織は電話に出た。「はい。」
案の定、電話の向こうからホテルの総支配人の声が聞こえた。「野村社長、おはようございます。お休みの邪魔をしてすみません。昨夜の件で少々制御不能な状況になってしまいまして、今朝早くから先方がホテルに押しかけてきて、昨夜のホテルの監視カメラの映像を確認したいと要求し、説明を求めています。」
野村香織は冷静に答えた。「監視カメラを見たいなら、見せてあげればいい。」
この言葉を聞いて、ホテルの総支配人は少し困った様子で「見せること自体は問題ないのですが…」
彼の言葉が終わる前に、野村香織は遮って言った。「大丈夫です。監視カメラは好きなだけ見せてください。一時間後にホテルに行きます。」
そう言って彼女は電話を切り、スマホのおすすめページに表示された盗墓映画を見ながら、非常に名残惜しそうに動画アプリを閉じた。まずは事態を収拾してから、ゆっくり続きを見ることにしよう。
電話の向こう側で、ホテルの総支配人は大きく深いため息をつき、携帯の画面を見ながら額の冷や汗を拭った。なぜか、この大物社長と電話で話すと、どきどきしてしまうのだ。
30分後、野村香織が外出すると、小村明音から電話がかかってきた。「香織ちゃん、夏川静香が側がホテルに押しかけて騒ぎを起こしているって聞いたけど?」
野村香織は眉を上げて言った。「へぇ、実家に帰ってから情報通になったじゃない。」
彼女には小村明音がどうやってこの件を知ったのか分からなかった。普通、こういう事があった場合、面子を保つために誰も広めようとはしないはずだ。まして奉天市の名門・小林家なのだから。
小村明音は冷ややかに鼻を鳴らした。「夏川静香が自業自得よ。彼女が付き合っている連中といったら、いざという時に彼女のためだと言いながら、結局裏切るような輩ばかりなんだから。」
野村香織は首を傾げた。「裏切る?どういうこと?」
小村明音はスマホを開き、SNSの友達の投稿を確認しながら「昨日の出来事を、写真付きで文章にして投稿したのよ。今や事態は大きくなってしまって、対処が難しそうだわ。でも心配しないで、私と貴史がすぐに行くから、あなたを一人でこんな事に対応させたりしないわ。」
野村香織は軽く笑った。「そう、じゃあホテルで会いましょう。」