野村香織は温かい牛乳を一口飲んで答えた。「大丈夫よ、元気だわ。ただホテルを出たところで渡辺大輔に会っただけ」
これを聞いた小村明音は急に元気になった。「何ですって?渡辺大輔に会ったの?あいつ、どうして奉天市にいるの?」
野村香織はまた牛乳を一口飲んだ。「間違いなければ、私に会いに来たんでしょうね」
渡辺大輔の予想は正しかった。野村香織は頭が良く、彼の意図をとっくに見抜いていた。今日廊下で渡辺大輔に会った時、彼が自分を探しに来たことは明らかだった。そうでなければ、どうして偶然奉天市に来て、偶然ホテルで出会うことがあり得るだろうか。世の中にそんな偶然はない。
しかも、嘉星グループがどれほどの実力を持っているか、元社長夫人である彼女はよく知っている。全国すべてとは言えないまでも、少なくとも全国の90パーセントの都市に嘉星グループの事業があり、しかも手掛ける業種も多岐にわたっている。ただし、それぞれの事業には専門の管理運営者がいるので、彼のような大社長が視察に来る必要などないはずだ。