そのとき、小村明音から電話がかかってきて、野村香織は携帯を取って言った。「どう?この二日間の二人の世界は楽しかった?」
小村明音は毎日少なくとも二、三回は電話やビデオ通話をしてくるけど、柴田貴史が嫉妬しないのかしら?
そう言われて、小村明音は不満げに言った。「何よ、私の本当の愛は香織だけなんだから。今夜は二人で火鍋を食べる予定なんだけど、一緒に食べに来ない?材料は全部川崎市で買ったのよ、味は間違いなく本場の味だから。」
野村香織は空を見上げた。午後二時過ぎに出かけて、今はもう日が暮れかけている。家に帰って夕食を作らなければならないことを考えると、笑って言った。「二人でそんなに誘ってくれるなんて、断ったら怒る?」
小村明音は演技力を発揮して言った。「ああ、あなた、もう私のことを全然愛してないの?あなたがいないと、火鍋も美味しくないわ。」
野村香織は冗談めかして言った。「正直に言うと、愛してないわ。でも...今夜は特に食べるものもないし、そんなに誠意を見せてくれるなら、しょうがないから付き合ってあげるわ。」
小村明音:「よし!野村女王様のご来臨、私はすぐに美味しい料理の準備に取り掛かります。今夜は必ず野村女王様を満足させてみせますわ。」
野村香織は笑って言った。「はいはい、下がりなさい。」
二人はふざけ合って数言葉を交わしてから電話を切った。ご飯を食べに行くことに決めたので、野村香織はシェア電動自転車を借りて戻るしかなかった。タクシーに乗りたくないわけではないが、春節期間中は全国が休暇状態で、たまに大通りで営業しているタクシーを見かけても、すでに客を乗せているものばかりだった。
……
奉天市西部、福住団地。
野村香織は十分懐古的だが、小村明音と柴田貴史は彼女以上に昔を懐かしむタイプで、家まで子供の頃に住んでいた平屋の近くに買った。ここは比較的辺鄙な場所で、市の中心部の繁華街からはかなり遠く、丸一時間かけてようやく福住団地に到着した。
すでに五時か六時頃で、すっかり暗くなっていた。野村香織は近くの返却ステーションを見つけ、コードをスキャンして支払いを済ませた後、小村明音から送られてきた位置情報に従って歩き始めた。