渡辺大輔は静かに野村香織を見つめていた。離婚する前まで、彼は野村香織が拝金主義の女だと思い込んでいた。渡辺お爺さんとの出会いや自分を助けてくれたことも、彼の目には香織の計算づくの行動としか映っていなかった。しかし離婚してから今まで、彼は彼女がそんな女性ではないと、そして行動力があり決断力のある人だと、徐々に気付き始めていた。
この期間、彼は香織に何度も会ってきた。時には優しく柔らかで、時には色っぽく、時には落ち着いていて、時には激しい気性を見せ、威圧的な態度を取り、そして今日のように、強引さの中に可愛らしさと我儘さを見せることもあった。
今夜まで、彼は香織のことが好きだった。彼女の美しさが好きで、凛とした姿が好きだった。表面的な愛情の中には軽い好意と多くの後悔が混ざっていた。しかし今、彼は本当にこの女性を愛するようになっていた。