野村香織は眉を上げて言った。「マーケティング部が選んだものは全然ダメよ。無理に投資して映像化しても大ヒットは望めないわ。私たちドラゴンキング・エンターテインメントがやるべきことは、安全策ではなく、他社と差別化された良質な作品を作ることなの。でも良質な作品を作るには、本当に優れた原作を選ばなければならない。内容があり、ストーリーと主人公が魅力的であることは最低限の基準よ」
彼女の言葉を聞いて、木村花絵は悟ったように言った。「分かりました、野村社長」
昨日、野村香織は選ばれた全ての本と脚本に目を通したが、どの本も彼女の心に響くものはなかった。それらのストーリーのほとんどは平凡で、特徴がなく、そんなものを映像化してもヒットするはずがない。
驚いた兎のような木村花絵を見て、野村香織は笑いながら言った。「その様子じゃ、まるで私が人を食べるみたいね」
木村花絵は申し訳なさそうな表情で言った。「申し訳ありません、野村社長。今後は気をつけます」
野村香織は呆れながらも面白そうに首を振った。「いいわ。もうお昼の時間でしょう?何が食べたい?」
木村花絵は少し驚き、光栄そうな表情で言った。「野、野村社長が私を食事に誘ってくださるんですか?私、私、これは...」
野村香織は言った。「いいから、私が奢るわ。早く行きましょう」
そう言って、野村香織は木村花絵を気にせずエレベーターに向かって歩き出した。野村香織の優雅な後ろ姿を見つめながら、木村花絵は嬉しさのあまりその場でぴょんぴょん跳ねた。大学時代の憧れの人と一緒にランチができるなんて、幸せが突然訪れすぎた。
しかし、野村香織は同じ学部の後輩に木村花絵という人がいたことをすっかり忘れていた。あの頃は両親を亡くしたばかりで、小村明音に個人指導をしなければならず、他のことに気を配る余裕はなかった。
今、木村花絵が後輩だと名乗って、野村香織はようやく少しだけ記憶を思い出した。「少し覚えているわ。間違っていなければ、4年生の卒業式の時に、講堂で私の卒業写真を撮ってくれた人があなたよね?」