第354章 彼女を完全に掌握している

渡辺大輔は野村香織のあの冷淡な眼差しを思い出すたびに、胸が痛くなり、心が冷え切ってしまうような感覚に襲われた。昨夜、大勢の人前で告白したのに、野村香織は全く動じることなく、感動するどころか、むしろ彼に対する苛立ちを隠そうともしなかった。彼は野村香織を本当に失いそうな気がしていた。

テーブルの上で携帯が振動している。渡辺大輔は一瞥すると、表情が一気に冷たくなった。電話は母親の二見碧子からだった。言いたいことは言わずとも分かっていた。

……

花浜ヴィラ。

野村香織は昼食後、ベッドで美容睡眠を取ろうとしていたところ、夏川健志から電話がかかってきた。野村香織は電話に出た。「夏川若旦那?」

夏川健志の声が聞こえてきた。「話題のトレンド、見ましたよね?」

野村香織は言った。「はい、夏川若旦那にご迷惑をおかけしました。」