第361話 39度の高熱

完璧な曲線を描く顎、玉のように白い肌、すらりとした長い指、以前は気づかなかったが、男性でもこれほど美しく感嘆させることがあるのだと。

「ガチャン!」突然、渡辺大輔の手から水の入ったコップが床に落ち、砕け散った。透明な水しぶきが床一面に広がった。

「ちょっと、片付けて!」野村香織は我に返り、即座に命じた。

「すみません、コップを割ってしまって。手に力が入らなくて」渡辺大輔は申し訳なさそうに言った。

野村香織は無表情のまま、デリバリーの袋を開きながら尋ねた。「青木翔はいつ来るの?」

渡辺大輔は新しいコップに水を注ぎ、掃除をしている小さな子を見ながら、何も聞こえなかったふりをした。この質問には答えられないし、答えたくもなかった。

野村香織はさらに体温計を持ってくるよう指示した。「体温を測りましょう。38度以上なら、必ず病院に行かないと」

渡辺大輔は頷いた。「はい」

野村香織はテーブルに座ってデリバリーの食事を食べ始めたが、渡辺大輔が自分をじっと見つめているような気がして、落ち着かなくなった。珍しく優しく声をかけた。「お腹が空いているなら、デリバリーを頼んだら?すぐ届くわよ」

渡辺大輔は携帯を取り出した。「どこで頼んだの?」

野村香織は眉を上げた。「熱があるんだから、あっさりしたものしか食べちゃダメよ。牛肉スープご飯なんて無理」

渡辺大輔は鼻をすすった。「でも、いい匂いがする。食べたい」

この男の様子を見て、野村香織は小村明音が弟子を取ったのかと疑った。なぜなら、彼の今の表情は、小村明音が肉を見た時の哀れっぽい表情にそっくりだったから。

野村香織は白い目を向けながら言った。「好きにすれば」

彼女はベビーシッターでも世話係でもないのだから、いちいち細かいことまで気にかける必要はない。確かに渡辺大輔は病気だが、れっきとした大人なのだから、子供のように世話を焼く必要はないはずだ。

自分の面倒を見てくれないと分かると、渡辺大輔はデリバリーアプリを開きながら尋ねた。「じゃあ、何を食べればいいの?」

野村香織は顔も上げずに答えた。「あっさりしたもの。おかゆとか」