第395章 天は努力する者を見捨てず

野村香織が車を停めると、すぐに携帯電話が鳴った。「野村さん、申し訳ありませんが、先ほどお買い物された際の店員です。関口さんがお求めにならなかったピーチカラーのバッグについて、まだご興味はございますでしょうか?」

この言葉を聞いて、野村香織は微笑んだ。関口美子がそのバッグを買わなかったのは予想通りだった。結局、二千万円は二百万円ではないのだから。それに、関口美子が欲しがらないものを、彼女も当然欲しくはなかった。いつか出くわした時に、関口美子に自分が欲しくもないバッグだと言われるのは避けたかったからだ。

電話を切ると、野村香織はため息をついた。時間が足りなかったのが残念だった。もし時間があれば、関口美子が支払えない様子を見物したかった。きっと見応えのある光景だったに違いない。

……

百蘭亭。

野村香織は腕時計を見た。すでに六時十分を回っていた。少し気まずい思いをした。人との約束に遅れるのは初めてだった。女性だから特権があるとはいえ、彼女は遅刻が大嫌いだった。

幸い、斎藤雪子はすでに入り口で待っていて、すぐに個室へと案内してくれた。野村香織が部屋を見渡すと、二人の男性が座っていた。その中の一人、田中進とは以前会ったことがあったが、もう一人は初対面だった。

斎藤雪子の配慮で席に着いた野村香織は、田中進に向かって言った。「田村さん、大変申し訳ありません。渋滞で、お待たせしてしまいました。」

田中進は姿勢を正して答えた。「構いませんよ。」

野村香織は微笑んで尋ねた。「田村さん、河東の料理はお好みですか?」

田中進は頷いた。「河東の料理は独特の風味がありますね。試してみる価値はあります。」

野村香織は、田中進が軍人上がりのような印象を受けた。全身から厳かな威厳が漂い、周囲には薄い冷気が漂っているようだった。頬のえくぼは常に笑みを浮かべているように見えたが、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。態度は素っ気なくもなく親しくもなかったが、その目は彼女をじっと見つめ続けていた。

野村香織は眉を上げた。田中進の視線には何か違和感があった。不快感はなかったものの、むしろ彼女を気遣うような感じさえした。これが正式な初対面なのに、なぜ田中進が彼女を気遣うのだろう?野村香織は自分が敏感すぎるのかもしれないと思った。