第394章 支払えない

目の前に差し出された銀行カードを見て、店員は少し躊躇した。「関口さん、お買い物は先着順です。このバッグを最初にご覧になったのは、こちらの野村さんです。」

それを聞いて、関口美子は驚いたふりをして言った。「野村さん、このバッグがお好みですか?」

野村香織は頷いた。「ええ、まあまあ気に入っています。」

関口美子はキーワードを見つけた。「まあまあ?」

野村香織は微笑みながら、ショーケースの中の別のバッグを指さした。「こちらの方が好みなんです!」

関口美子が指さす方向を見ると、ショーケースには万能な黒いバッグが置かれていた。店員は素早く反応し、すぐにショーケースを開けて野村香織が指したバッグを取り出した。

「お客様、お目が高いですね。このバッグも今月の新作で、発売してまだ一週間も経っていないんです。」と店員は言った。

野村香織は笑顔で頷いた。「あと、あちらに掛かっている肌色のストッキング二枚も一緒に包んでください。」

ストッキングは自分用ではなく、斎藤雪子へのプレゼントだった。先ほどの会議で、斎藤雪子のストッキングが破れているのに気づいたが、彼女は忙しすぎてこういうものを買いに行く時間がなかった。だから野村香織はプレゼントとして買うことにした。自分の秘書もきちんとおしゃれをして、オフィスレディーのストッキング美脚を見せてほしい、と考えると魅力的だった……

そして、銀色のイヤリングも目に留まった。そのイヤリングは高価ではなく、数万円程度だったが、とても綺麗に見えた。上の赤い宝石が本物かどうかは分からなかったが、それはどうでもよかった。見た目が良ければそれでよかったので、店員にイヤリングも包んでもらうことにした。

全ての買い物を終えて、野村香織は笑顔で尋ねた。「合計でいくらですか?」

店員はレジのコンピューターを見ながら言った。「端数を切り捨てさせていただいて、合計で二百五十万円になります。カード決済か、QRコード決済のどちらがよろしいでしょうか?」

野村香織は黒いカードを取り出して差し出した。「カードで。その方が早いので!」