第7章 弟子を取る

私は疑わしげに顔を上げて彼を見た。この見慣れた顔を見て、加藤律も生まれ変わったのだろうか？

この時期の加藤律は、女性を寄せ付けず、冷たい表情と心を持ち、加藤お爺さんでさえも彼に命令することができなかったと言われている。

なのに、彼はこんなにも簡単に私の頼みを聞いてくれたの？

加藤律は携帯を取り出して私の前に置いた。「line追加して。各科目のテスト用紙を送ってくれれば、計画を立ててあげる」

私は自分の幸運に逆らうような人間じゃない！

どんな理由で加藤律が私にこんなに特別な態度を取るのかはわからないけど、このチャンスを掴まなきゃ。lineを追加すれば、彼との距離がまた一歩近づく。

加藤律が去っていく後ろ姿は、どこか慌ただしかった。

晩餐会が始まり、メイドに呼ばれた私は、彼女の軽蔑的な視線を浴びながら、前庭へと向かった。

ホールは人々で溢れ、華やかな雰囲気に包まれていた。

「星！こっちよ！」加藤蓮が私に手を振った。

私は見なかったふりをして、隅の方へ歩いて行った。

「星様、先生がお呼びです」父の秘書が近づいてきた。

私は頷いて、父に会いに行った。

「星、早く早く、こっちに来なさい」父は満面の笑みで私に手を振った。

父の傍には加藤お爺さん、加藤律のお父さん、加藤蓮の祖父の加藤勝がいた。

加藤お爺さんの側には、両手を後ろで組んで、いかにも退屈そうな表情の加藤律がいた。

私は心の中で微笑んだ。

「星や、加藤お爺さんが今しがた君のことを話していたところだよ。どこに行っていたの？」父の笑顔は媚びているようで、本人は全く気付いていないようだった。

私は加藤お爺さんにお辞儀をした。「加藤様、ご機嫌いかがですか！」

これからは、もう加藤おじいさんとは呼ばないわ。だって、私は彼の息子の奥さんになるんだから！

加藤お爺さんはこの呼び方を特に気にする様子もなかった。多くの人がそう呼んでいたからだ。

私は誰かの視線を感じた。顔を上げなくても分かる、それは加藤律だった。

「ほら星、こちらが七旦那様の加藤律だよ。七郎おじさんと呼べばいいわ。覚えているかい？」父の声は嬉しさに溢れていた。なぜ加藤家の父子の前でこんなに上機嫌なのかは分からない。

全身から「取り入ろう」という意図が丸見えだった。

覚えている？

私は少し困惑して父を見て、それから加藤律を見たが、加藤おじさんとは呼ばなかった。その呼び方があまり好きではなかったから。

「覚えていないの？うちの星はね、金魚みたいなもので！記憶は7秒しかないんですよ！はは、律様、どうかお気になさらないで！」父は全身の細胞を総動員して取り繕っているようだった。

加藤律は父の熱演に全く関心を示さず、深い眼差しで私を見つめていた。

加藤お爺さんは笑って言った。「星も今では立派な娘に成長したねえ。ところで星、子供の頃に郊外で人質になった事件を覚えているかい？あの時、君がいなければ、律は救助隊が到着するまで持たなかっただろうね！もう覚えていないのかい？」

私は加藤律を見て、それから期待に満ちた表情のお爺さんと父を見て、ゆっくりと首を振った。

彼らが話していることは、全く記憶にない。

加藤お爺さんの笑顔が少し薄れ、ため息をついた。「覚えていないのも、いいことかもしれないね。心の負担にならずに済む」

父はすかさず相槌を打った。「そうですね、もう過ぎたことです。九死に一生を得て、きっと良いことがありますよ。ほら、律様もここ数年、素晴らしい活躍をされていますし、まさに鬼に金棒を得たようですね！」

加藤お爺さんは再び機嫌を良くし、息子の方を向いて誇らしげな表情を浮かべた。

加藤律が口を開いた。「星は高校三年生だよね？」

父は一瞬戸惑い、すぐに頷いた。「ええ、高三です。来年は大学受験ですね」

「成績はどうだ？」加藤律が尋ねた。

電光石火のように、ある考えが頭に浮かび、私は嬉しそうに加藤律を見た。

彼は私を見ず、父だけを見ていた。

父は少し困った様子だった。私の成績のことを言いづらかったのだろう？

「あまり良くありません」私は小声で言った。

父の顔が曇った。

「私が補習を手伝おう。来学期からM大学で助教として勤務することになっている。その前に生徒を一人見つけて練習しておきたいんだ。どうだ？私について勉強する気はあるか？無料だが、言うことは絶対に聞いてもらう！」加藤律の声には、ガラス温室で見せた優しさは全くなく、誰も反論を許さないような威厳が感じられた。

私たちは皆、一瞬驚いた。

私は嬉しさのあまり、言葉では表現できないほどだった。

加藤お爺さんは好奇心を抱いたようだった。結局のところ、彼の息子は全身で「近寄るな」というオーラを放っているのに、なぜ私の家庭教師になると言い出したのだろう？

父は狂喜乱舞といった様子で、手をこすり合わせながら、言葉も上手く出てこない様子だった。「そ、それは申し訳ありません。あ、素晴らしい。星、知ってるかい？これは本当に素晴らしいことだよ。加藤律さんは当時の大学入試で、私たちの市で一位、つまり状元だったんだよ！星、早く承諾しなさい、早く！」