桜井蓮はここ数日なぜ藤丸詩織のことばかり考えているのか分からず、理由を考えるのを諦めた。彼は再び水野月奈を見つめながら言った。「僕は本当にそうしたいんだ」
まるで何度も言えば、先ほど突然藤丸詩織のことを考えてしまったことを埋め合わせられるかのように。
水野月奈は桜井蓮の言葉を聞いて、目を輝かせた。「桜井さんが気にしないなら、私たち帰りましょう」
桜井蓮はぼんやりと頷き、病院を出て車に乗った時、やっとおかしいことに気付いた。
気付いた後、彼は水野月奈に真剣に言った。「月奈、僕は君の手のことを気にしているわけじゃない。ただ、君はピアノが大好きだから、後悔させたくないんだ。安心して、必ず名医を探して治療してもらうから」
水野月奈は先ほどまでの良い気分が、桜井蓮の言葉を聞いて再び沈んでしまった。彼女は一度断っているし、もう一度断れば疑われるかもしれない。
そのため、彼女は喜びを装うしかなかった。「はい、ありがとう、桜井さん!」
名医を探すのはとても難しく、桜井蓮に見つけられるとは思えなかったので、水野月奈はあまり気にしなかった。他のことは後で考えることにした。
水野月奈は桜井蓮がまた答えにくい話をするのを恐れ、急いで言った。「桜井さん、お疲れですか?少し休みませんか?」
桜井蓮は元々疲れを感じていなかったが、水野月奈に言われて、疲れたようにあくびをした。「うん、少し休もうかな」
言葉が落ちてすぐに、桜井蓮は眠りについた。
これを見て水野月奈はほっとし、その後彼女は桜井蓮の胸に寄りかかり、携帯を取り出して写真を撮り、連絡先の藤丸詩織に送信した。
そして一言付け加えた:桜井蓮が私と結婚すると約束してくれたわ。
送信した内容を満足げに見つめ、水野月奈は得意げな笑みを浮かべた。
以前、彼女が海外にいた時も、このように桜井蓮との様子を藤丸詩織に送っていた。
最初は怖かったが、藤丸詩織が軟弱で桜井蓮に言いつけないことを知ってからは、送る頻度も増えていった。
ただ、その後藤丸詩織が全く返信しないので、面白くなくなってきた。
前回送ったのは数ヶ月前で、今日突然送ったのは水野月奈が危機感を感じたからだった。彼女は桜井蓮が時々ぼんやりする様子を見逃さなかった。