桜井蓮はここ数日なぜ藤丸詩織のことばかり考えているのか分からず、理由を考えるのを諦めた。彼は再び水野月奈を見つめながら言った。「僕は本当にそうしたいんだ」
まるで何度も言えば、先ほど突然藤丸詩織のことを考えてしまったことを埋め合わせられるかのように。
水野月奈は桜井蓮の言葉を聞いて、目を輝かせた。「桜井さんが気にしないなら、私たち帰りましょう」
桜井蓮はぼんやりと頷き、病院を出て車に乗った時、やっとおかしいことに気付いた。
気付いた後、彼は水野月奈に真剣に言った。「月奈、僕は君の手のことを気にしているわけじゃない。ただ、君はピアノが大好きだから、後悔させたくないんだ。安心して、必ず名医を探して治療してもらうから」
水野月奈は先ほどまでの良い気分が、桜井蓮の言葉を聞いて再び沈んでしまった。彼女は一度断っているし、もう一度断れば疑われるかもしれない。