069 3人の兄

藤丸詩織は両目を閉じ、イライラしながら手を上げてこめかみを揉んでいた。片桐沙耶香に「そうだ、ついでに長谷慧を私のところに呼んでくれ」と言った。

片桐沙耶香:「はい、藤丸社長!」

片桐沙耶香が出て行ってしばらくすると、長谷慧が入ってきた。彼女は笑顔で「藤丸社長、桜井社長との面会を承諾したのは私の当然の務めです」と切り出した。

長谷慧は今でも、藤丸詩織が自分を褒めに来たと思い込んでいた。

藤丸詩織は書類から顔を上げ、冷たい目で長谷慧を見つめながら「上司に黙って勝手に決定を下すのが、あなたの務めだというの?以前、桜井家を断るように言ったはずよ。なぜまだ承諾したの?」と言った。

長谷慧は藤丸詩織の言葉を聞いて呆然とし、「どうしてですか?私たちの会社と桜井家の協力は利点しかないはずです。私も会社のことを考えて…」と戸惑いながら言った。

藤丸詩織はその言葉を聞いて、淡々と「それは分かっているわ。でも必要ないの。そうでなければ、なぜ断るように言ったと思う?」と尋ねた。

長谷慧は藤丸詩織から発せられる圧迫感のある雰囲気を感じ、立っていられなくなって数歩後ずさり、慌てた目で床を見つめながら「私、私は…」と言った。

藤丸詩織:「人事部に行って退職手続きを取ってきなさい。これまでの給与は通常通り支給するし、相応の補償も全て支払うわ」

長谷慧はこの言葉を聞いて急に焦り、すぐに「いいえ、退職はしません!」と言った。

藤丸詩織が藤丸さんに来てから、社員の福利厚生は右肩上がりに上昇し、残業なしで定時退社できる上に給与も高く、さまざまな祝日手当もあった。最も重要なのは、社長が仕事を押し付けず温和だということだった。もしランキングがあれば、藤丸さんは間違いなく一位の座を守り続けるだろう。

しかも長谷慧は最近、多くの物を前借りして購入していたため、今すぐには藤丸さんより良い会社は見つからないし、今退職したら、あのお金は絶対に返せなくなる!

長谷慧は涙とよだれを垂らしながら藤丸詩織を見て、「お願いです、藤丸社長。もう一度チャンスをください。二度とこんなことはしません!」と懇願した。