084 面倒を省く

桜井蓮は藤丸詩織が自業自得だと言いたかった。もし最初から彼女と結婚したいと思わなければ、こんなことにはならなかったはずだ。

しかし桜井蓮は藤丸詩織を見つめ、口を開きかけたものの、結局何も言えなかった。

藤丸詩織はそれを見て、桜井蓮とこれ以上話す気はなかった。「用がないなら、私は行きます」

桜井蓮:「ちょっと待って!」

藤丸詩織は桜井蓮を無視して、歩き続けた。

桜井蓮は深く息を吸い込んで、直接言った:「私はもう絵を藤丸さんに贈ったのに、あなたは知っていながら、私の母から絵を買ったでしょう。どう考えても、これは道徳に反することです!」

藤丸詩織はその場で立ち止まり、信じられない様子で振り返って桜井蓮を見つめ、驚いて尋ねた:「あの日届いたプレゼントが、椎名頌先生の絵だったの?」

桜井蓮は藤丸詩織の態度が理解できず、不機嫌な口調で言った:「当然でしょう。他に何だと思ったの?しかも私はあの時、絵をあなたの手に渡したじゃない。私が絵を贈ったのを見なかったの?」

桜井蓮は言い終わるや否や、ある考えが頭に浮かび、素早く藤丸詩織の方を向いて尋ねた:「もしかして、絵を捨てたの?」

藤丸詩織:「……」

桜井蓮は藤丸詩織が黙っているのを見て、顔色を変え、信じられない様子で言った:「藤丸詩織、あなた本当に絵を捨てたの!藤丸さんの許可を得たの?いいわ、藤丸さんに伝えてください。これからは桜井家は藤丸家とは一切取引しません!」

藤丸詩織は桜井蓮の脅しを気にも留めなかった。どうせ彼女が言わなくても、桜井家とは取引するつもりはなかったのだから、むしろ彼女の決意のおかげで面倒が省けた。

ただし取引はどうでもよかったが、椎名頌先生の絵は重要だった。特にこの『月』は、父が生前最も好きだった絵なのだ!

そう思うと、藤丸詩織は後ろの桜井蓮のことは気にもせず、急いで結城家を出て、車で藤丸家に向かった。

桜井蓮は藤丸詩織が慌ただしく去っていく姿を見て、さらに表情を曇らせ、携帯を取り出して相良健司に迎えに来るよう電話をかけた。

相良健司は桜井蓮の冷たい声を聞いて、心臓がドキドキし、少しも躊躇せずに、すぐに車で結城家の門前に到着した。

桜井蓮は冷たい表情で車に乗り込み、体からは絶え間なく冷気を発していた。