138 もう行っていいよ

桜井蓮は箱の中身を見て、完全に呆然としてしまった。箱の中のものは全て見覚えがあった。それらは全て藤丸詩織が彼にくれたプレゼントだったからだ。

腕時計は結婚一周年、スーツは結婚二周年、その他のプレゼントは藤丸詩織が様々な記念日に用意してくれたものだった。そして彼は毎回プレゼントを受け取る度に、藤丸詩織に冷たい言葉で嘲り、プレゼントを容赦なくゴミ箱に捨てていた。

桜井蓮は思いもよらなかった。プレゼントを捨てた後、藤丸詩織がそれらを一つ一つ拾い集め、丁寧に整理して、大切に箱の中にしまっていたなんて。

でも三周年のプレゼントはどこに?

桜井蓮の視線がゴミ箱に落ち、中身を確認すると、一瞬呆然となった。ぼんやりとゴミ箱の方へ歩み寄り、かがんで中からネクタイを拾い上げた。

これは藤丸詩織が三周年に贈ってくれたプレゼント、そして彼女が離婚を切り出した日のものだった。

桜井蓮はタオルを取り出し、優しくネクタイの埃を拭き取り、他のプレゼントと一緒に箱の中に入れた。そして箱を閉じようとした時、箱の一番底に額縁らしきものが見えた。好奇心に駆られ、手を伸ばして額縁を取り出した。

額縁の中には、ウェディングドレスを着た彼と藤丸詩織が見つめ合って微笑む場面が描かれていた。

桜井蓮はこの絵を見て、目に戸惑いの色が浮かんだ。なぜなら彼と藤丸詩織にはこのような場面は一度もなかったからだ。

藤丸詩織は今までこの絵を見せたことがなく、しかも彼は覚えている。この三年間、藤丸詩織はずっと家にいて、誰とも接触していなかった。誰かにこの絵を描いてもらうことなど不可能だったはずだ。

突然、桜井蓮の頭にある可能性が閃いた。

もしかしてこの絵は、全て藤丸詩織が描いたのか?

桜井蓮は目を伏せて真剣に絵を観察した。これまで多くの絵画に触れてきた彼は、一目でこの絵の技術の高さを見抜いた。細部まで繊細で、絵の各部分の処理が非常に巧みで、むしろ大家以上の出来栄えだった。

桜井蓮本人がこの絵を見て、一瞬現実と幻想の区別がつかなくなるほどだった。まるで自分と藤丸詩織にこのような場面が本当にあったかのように感じられた。

藤丸詩織は絵も描けたのか?

桜井蓮がそう考えた瞬間、携帯が鳴った。

調香師:「桜井社長、別荘に着きました。」

桜井蓮はお守りを持って階下に降り、調香師に手渡した。