桜井蓮は調香師の姿が完全に消えるのを見届けてから、やっと視線を戻し、ポケットからお守りを取り出して、長い間眺めていた。
師匠の言葉によると、藤丸詩織は調香の才能があるということだったが、この3年間、彼女は何も彼に話さなかった。おそらくこの香りは、彼女がお寺でお守りを求めた後、誰かに教わって調合したものなのだろう。
桜井蓮はそう考えたものの、心の中ではその説明に疑問を感じていた。結局、藤丸詩織は多くのことを知っていて、それを彼は全く知らなかったのだから。
桜井蓮は周りを見回し、長く人が住んでいないために埃が積もった家具を見つめながら、目に一層の戸惑いを浮かべた。
離婚の時、藤丸詩織は彼にこの別荘を要求した。当時、彼は藤丸詩織がこれを売って金に換えるつもりだと思い、彼女が彼と離婚したのはお金のためだと考え、拝金主義の女だと決めつけていた。