177 一匹のポチ

榊蒼真が去った後、藤丸詩織はテーブルからケーキを一つ取り、小さく口に運んでいた。突然、耳元で刺々しい声が聞こえた。

藤丸詩織はそれが桜井雨音だとすぐに分かった。

桜井雨音は鋭い声で言った。「藤丸詩織、なぜここにいるの?」

藤丸詩織は心の中で不愉快に感じ、振り向いて桜井雨音の隣に立つ桜井蓮を見て、さらに不愉快になった。

藤丸詩織は二人を見ることすら嫌で、手の中の小さなケーキを見つめながら、冷たい声で言った。「私がここにいるのは、当然チケットを持っているからよ。それに、このパーティーは桜井家が主催したものじゃないし、帝都ホテルも桜井家の所有物じゃないでしょう。だから、私がここにいることを制限する資格なんて、あなたたちにはないはずよ?」

桜井雨音は藤丸詩織の一言で顔色を悪くし、唇を噛んでから強引に言い返した。「お兄様がパーティーに来ると知って、しつこくついてきたんでしょ!」

藤丸詩織は桜井雨音のその言葉を聞いて、顔色が悪くなった。

桜井雨音は藤丸詩織の表情の変化を見て、得意げに言った。「図星だったみたいね!」

藤丸詩織は桜井雨音の得意げな口調を聞いて、さらに顔色を悪くし、急いで言い返した。「図星なんかじゃないわ。あなたの言葉を聞いて吐き気がしただけよ。だって桜井蓮には取り柄なんて何一つないのに、私がわざわざパーティーまでついていく理由なんてないでしょう?」

桜井雨音は藤丸詩織がこんなにも兄を貶すとは思わず、怒って指を指しながら叫んだ。「藤丸詩織、自分の過去の姿を見てみなさいよ。今さら何の資格があってお兄様のことをそんな風に言えるの?あなたこそ、お兄様が来ると知って、犬みたいにしつこくついてきたくせに、今になって認めようとしないなんて、はははは、本当に...」

桜井蓮は顔を曇らせ、冷たい声で叫んだ。「雨音、黙れ!」

桜井雨音は驚いて笑い声を喉に詰まらせ、慌てて咳き込んだ。落ち着いてから、信じられない様子で桜井蓮を見つめ、委屈そうに言った。「お兄様、どうして私を怒るの?私が言ったことは全部本当よ。藤丸詩織は本当に犬みたいにお兄様の後をついて回ってたじゃない。」

藤丸詩織は桜井雨音の言葉を聞いて、さらにイライラした。人の言葉が通じない人がこの世に存在することが理解できなかった。