186 誰にも言わないで

若宮玲奈は藤丸詩織の質問に、完全に頭が真っ白になり、この時になってようやく自分がどんな結果に遭うのかを思い出した。

ただ、認めなければ、得られたお金で足の治療を受け、そのままスポンサー活動を続けられるはずだった。

若宮玲奈はそのことを考えると、次第に落ち着きを取り戻した。

藤丸詩織は若宮玲奈の様子を見て、彼女が何を考えているかを悟り、冷静に言った。「私はあなたを法廷に訴え、同時に藤丸家の権力を使ってあなたのすべてのリソースを遮断します。そうすれば、あなたはスポンサー活動を一切受けられなくなります。」

若宮玲奈は一瞬固まったが、すぐに開き直り、「大丈夫よ、藤丸さんと対立している会社は必ずあるはず。そういう会社が私を起用してくれるわ」と言った。

ちょうど歩いてきた周防司は、若宮玲奈のその言葉を聞いて、急いで言った。「我が周防は絶対にあなたを起用しません。さらに業界内で、誰かがあなたを起用すれば周防の敵とみなすと言い触らしますよ!」

藤丸詩織は意外そうに周防司を見た。

周防司は藤丸詩織が自分を見ていることに気づくと、非常に興奮し、思わず投げキッスを送った。

藤丸詩織は周防司のその仕草を見て、感謝の言葉が喉に詰まった。口を動かしてみたものの、しばらく努力しても、どうしても言葉が出てこなかった。

桜井蓮は藤丸詩織が周防司を見ているのを見て、心中非常に不愉快になり、目を伏せて若宮玲奈に冷たく言った。「もし誰かが彼女を採用すれば、桜井家の敵とみなします!」

藤丸詩織の瞳に驚きが走ったが、桜井蓮に感謝しようとは思わなかった。結局、彼女は根に持つタイプの人間だった。

藤丸詩織は、桜井蓮が最初からカートを押したのが桜井雨音だと知っていたはずだと考えた。あの時、彼は顔を上げていたのを覚えていたからだ。知っていながら言わず、桜井雨音をかばい続けていた。

それは藤丸詩織に、自分が記憶喪失だった時、桜井家でいつも虐げられ、誰も真実を聞こうとしなかったことを思い出させた。

藤丸詩織には理解できなかった。桜井蓮は何に取り憑かれたのか、なぜそんな言葉を口にしたのか。

周りの人々は周防司と桜井蓮の言葉を聞いて、思わず隣の人と小声で議論し始めた。