223 求愛者

周防司はグラスを手に取り、軽く頭を傾けて一気に飲み干すと、顔を赤らめながらソファーに無造作に寝そべって、不思議そうに尋ねた。「普段この時間、君はいつも仕事で忙しくて姿も見えないし、誘っても来なかったのに、今日は自分から僕をバーに誘うなんて。」

桜井蓮は眉間にしわを寄せ、イライラした様子で、グラスを重ねていた。

桜井蓮が黙っていると、周防司も急かすことなく、二人の間に静寂が流れた。

ついに桜井蓮が我慢できなくなり、口を開いた。「藤丸詩織は記憶喪失だったんだ。」

周防司は凍りつき、驚いて立ち上がると、上着を掴んで外に飛び出そうとした。

桜井蓮はそれを見て尋ねた。「何をするつもりだ?」

周防司は焦った様子で急いで言った。「詩織が記憶喪失だって言ったじゃないか?会いに行かなきゃ。記憶がないうちに俺に惚れさせるのが一番いいチャンスだ!」

桜井蓮の顔が曇り、手にしていたグラスを強く机に置き、冷たい声で言った。「座れ。詩織は今は記憶喪失じゃない!」

周防司は席に戻ると、桜井蓮の先ほどの言葉を思い返したが、やはり理解できず、尋ねるしかなかった。「さっき詩織が記憶喪失だって言ったのは、どういう意味だ?」

桜井蓮は一瞬黙り、ゆっくりと口を開いた。「三年前、詩織があの爆発した客船に乗っていた時、命は助かったものの、記憶を失っていたんだ。」

当時の客船事故は大きな影響を与えた出来事で、周防司はすぐにそれを思い出し、信じられない様子で目を見開いたまま、しばらく我に返れなかった。

周防司の瞳は心痛めるような色を帯びていた。「詩織がそんなに多くのことを経験していたなんて。」

周防司はゆっくりとある事実に気付き、桜井蓮を見て言った。「だから詩織はそんなに大きく変わって、君を好きになったんだな。」

桜井蓮は漆黒の目で、冷たく周防司を見つめた。

周防司は軽く咳払いをして言葉を止めたが、心の中では先ほどの自分の考えに同意していた。

桜井蓮は今、後悔の念でいっぱいで、うなだれて落ち込んだ様子で言った。「詩織が僕を騙していなかった、裏切っていなかった、騙そうとしていなかったと分かってから、この頃ずっと彼女のことが頭から離れない。夢の中でさえも。」

周防司は桜井蓮に活該だと罵りたかった。あんなひどいことをしておいて、今更後悔しても遅いのだ。