藤丸詩織は一瞬固まり、我に返って口を開いた。「誤解よ。私と彼は恋人同士じゃないの……」
池内眠は頷いて、「そうなんですか」
どうやら男性がまだ女性を振り向かせていないようだ。
池内眠は榊蒼真に向かって頑張れのジェスチャーをした。やはり彼はイケメンだし、何より藤丸詩織を見る目が優しさに満ちていたので、彼には期待していた。
榊蒼真は頷いた。
池内眠は二人を村に案内し、そして「まっすぐ進んで、左に曲がれば着きますよ」と言った。
その時、池内のお母さんが何か話し、池内眠は藤丸詩織に伝えた。「母が言うには、椎名妙先生は以前、刺繍コンテストに招待されたことがあるんですが、招待した人が詐欺師だったそうで、それ以来、警戒心が強くなって、あなたの依頼を受けてくれるかどうか分からないそうです」
藤丸詩織:「おばさん、教えていただきありがとうございます。私が詐欺師ではないことを証明してみせます」
藤丸詩織はすぐに真壁誠にメッセージを送った。
藤丸詩織:刺繍の資料を一部送ってください。
真壁誠は一分後に送信してきた。
真壁誠:社長、こちらに署名が必要な契約書がありますが、今お伺いしてもよろしいでしょうか?
藤丸詩織:今、綾部市にいるので、契約書は私のオフィスに置いておいてください。戻ってから確認します。
真壁誠は驚いて声を上げた。「綾部市!」
社長の行動力は本当に凄まじい。午前中に椎名妙先生のことを知り、午後にはもう綾部市に着いている。さっき資料を要求したということは、もう椎名妙先生の家に着いているということだろう。
突然、桜井蓮の声が真壁誠の耳に届いた。「何の綾部市?」
真壁誠は一瞬固まり、花を抱えた桜井蓮と、その後ろにいる相良健司を見て、思わず「藤丸社長が綾部市に行きました」と口走った。
桜井蓮は冷たい声で尋ねた。「藤丸詩織が綾部市で何をしている?」
真壁誠は我に返り、桜井蓮の質問に答えなかった。
桜井蓮は両手を強く握りしめ、真壁誠を鋭い目つきで睨みつけた。数分後、抱えていた花を相良健司に投げ渡し、踵を返した。
相良健司は必死に存在感を消そうとしながら、桜井蓮の後を追い、小声で「桜、桜井社長……」と呼びかけた。
桜井蓮:「花は捨てろ!」
相良健司は反論できず、急いで手にした花を近くのゴミ箱に捨てた。