324 刺繍の名人を探して

人々の視線が資料に落ちると、協力企業が周防グループと桜井グループだと分かった途端、全員が呆然となった。

「この二社って、私が思ってるあの二社？」

「考えるまでもないでしょう。責任者が周防司と桜井蓮って書いてあるんだから、間違いなくあの二社よ！」

「この二人が協力企業なら、刺繍プロジェクトが失敗する可能性は大幅に下がるわね！」

……

藤丸明彦は周りの議論を聞いて眉をひそめ、隣の人が持っていた資料を奪い取った。そこにはっきりと書かれた二つの名前を見て、全身が震えた。

藤丸詩織がどうやって桜井蓮と周防司と知り合いになったのか理解できなかった。なぜ彼らが一見すると赤字確実な刺繍プロジェクトに参加しようとするのか。

藤丸詩織のあまい女め、一体どんな手を使ったんだ？

皆が配布された資料を真剣に読んでいると、藤丸詩織の刺繍産業への取り組みが一時的な思いつきではなく、緻密な実行計画が既に用意されていることに気付いた。

計画を読み終えると、刺繍は将来必ず販路を見出し、世界中で人気を博すかもしれないと突然思えてきた。

会議室を出た後、周りを見回しても藤丸明彦の姿は見当たらなかった。

高遠康が尋ねた。「藤丸明彦を見かけた人いる？」

柳瀬貴之が答えた。「さっき走って行くのを見たよ。」

森村鴻は顔を曇らせ、冷たい声で言った。「行くぞ、急いで追おう。藤丸明彦のやつ、よくも俺たちの背後でこんなことをしてくれたな。しっかりと懲らしめてやる。絶対に見逃すわけにはいかない！」

三人は険しい表情で足早に出て行った。

藤丸詩織は皆が去った後、真壁誠に尋ねた。「先日のネット上の刺繍コンテストの結果はどうだった？」

真壁誠はため息をつき、大会の結果を藤丸詩織に見せた。

藤丸詩織は一瞥すると、応募作品は全て多かれ少なかれ欠陥があり、しかもそれが深刻なものだと分かった。

藤丸詩織は言った。「現代では、刺繍を知り、学ぶ人が少なくなってきている……」

真壁誠は突然ある人物を思い出し、口を開いた。「藤丸社長、綾部市に椎名妙という職人がいます。その方の刺繍の技術は特別優れていると聞きましたが、それは数年前の話で、今はネット上で姿を見かけません。」

「椎名妙……」藤丸詩織は静かに名前を繰り返し、突然強い既視感を覚えた。そのとき、ある光景が脳裏に浮かんだ。