桜井蓮は数秒間呆然としたあと、我に返って中に突っ込もうとした。
相良健司はその様子を見て、急いで桜井蓮を引き止めた。「桜井社長、今は危険すぎます。援助を呼んだほうがいいんじゃないでしょうか!」
桜井蓮は相良健司の手を振り払った。「援助が来たら手遅れになる。」
相良健司は桜井蓮の決意の固さを見て、引き止めるのを諦めた。ただし……
相良健司:「桜井社長、藤丸さんを探しに行く必要はありません。彼女は戻ってきました。」
桜井蓮は喜んで相良健司の視線の先を見たが、藤丸詩織が老人を支え、その傍らに榊蒼真がいるのを見て、表情が暗くなった。
藤丸詩織はよくやってくれた。綾部市に来たことを彼に告げずに、榊蒼真を連れてきたとは。
その時、地面が突然激しく揺れ、藤丸詩織たち三人のいる周辺には数軒の家があり、それらは今にも崩れそうに揺れていた。
藤丸詩織はそれに気付き、榊蒼真の方を向いて言った。「急ぎましょう!」
しかし藤丸詩織の言葉が終わるか終わらないかのうちに、家屋が一気に崩れ落ち、彼らに向かって真っ直ぐに落ちてきた。
藤丸詩織は瞳孔を縮め、身を傾けて椎名妙を守った。
家屋と樹木が崩れ落ち、埃が目の前に舞い上がる中、桜井蓮は目の前の廃墟と化した光景を見て、瞳孔を縮ませながら急いで駆け込んだ。
桜井蓮は声を張り上げた。「早く救助を!」
この時、地震はすでに収まっており、人々は桜井蓮の声を聞くと、一斉に駆けつけた。
桜井蓮は手を休めることなく動かし続け、表情は次第に沈んでいったが、心の中で藤丸詩織の無事を祈り続けていた。
救援隊もこの時到着し、救助活動に加わった。
椎名妙:「誰かいませんか、助けて……」
藤丸詩織は頭部に激しい痛みを感じ、目の前は真っ暗で、必死に目を開こうとしたが、少しの力も出せず、徐々に意識が混濁していった。
藤丸詩織はまた夢の中の男性を見た。彼は白い光の中にいて、輪郭がより柔らかく、優しい声でコードを丁寧に教えていた。
思わず前に進み、男性に触れようとしたが、手を伸ばした途端、男性は消えてしまった。
彼は一体誰なのか……
藤丸詩織は目を開けると、目の前には青い空が広がっていた。痛む頭を押さえながら、ふらふらと起き上がった。