345 春薬を盛られる

藤丸明彦は香月蛍に教えられるまでもなく、自分でもそう考えていた。「安心して、その時は裸の写真を何枚も撮らせて、メディアにリークさせるから!」

香月蛍は満足げに電話を切った。

藤丸詩織は温水鶴との商談を終えて、個室に戻ろうとした。しかし、数歩歩いただけで、頭がくらくらし始め、足取りが不安定になってきた。

藤丸詩織はイライラしながら頭を掻き、疑問に思った。酔っているのだろうか?

しかし、その考えはすぐに否定された。自分の酒量は把握しているし、今日はほんの数口しか飲んでいないのだから、酔うはずがない。

藤丸詩織は自分の脈を取り、媚薬を盛られたことを知ると、信じられない様子で目を見開いた。

自分でツボを押さえた後、急いで個室に向かい、橘譲に家まで送ってもらおうとした。

しかし、藤丸詩織は薬の効果を甘く見ていた。ツボを押さえても数秒しか意識が保てず、すぐにまた朦朧とし始め、体はどんどん熱くなり、次第に火照ってきた。

近くで、体格の良い、顔中傷跡だらけの男が彼女に近づいてきた。

個室。

三人は一緒に座っていたが、誰も話さず、空気は数度冷え込んでいた。

榊蒼真は時々携帯を見ていたが、突然立ち上がり、「もう10分経っても姉さんが戻ってこない。探しに行ってきます」と言った。

橘譲も心配で、榊蒼真の言葉を聞いて、頷きながら「行ってきな」と言った。

榊蒼真は大股で個室を出た。

榊蒼真が階段を降りると、藤丸詩織が地面に膝を抱えて座っているのが見え、その傍らには一人の男が倒れていた。

彼は急いで駆け寄り、「姉さん、具合が悪いんですか?病院に連れて行きます!」と尋ねた。

榊蒼真が藤丸詩織を抱き上げようとしたが、彼女に触れる前に手首を強く掴まれた。彼女の手の温度を感じ、急いで「姉さん、僕です。榊蒼真です...」と言った。

榊蒼真...

藤丸詩織は茫然と榊蒼真を見上げ、朦朧とした意識の中で彼だと確認すると、ゆっくりと手を離し、涙声を抑えながら「病院...連れて行って!」と言った。

榊蒼真は急いで「はい」と答えた。

彼が藤丸詩織を地面から支え上げようとしたが、抱き上げる前に壁に押しつけられた。

次の瞬間、涼しい風が彼の顔に当たり、柔らかな感触が唇に伝わり、しびれるような感覚が全身を駆け巡った。