348 遊園地

香月蛍の家庭は裕福ではなく、家族全員でも500万円を集めることができず、まして彼女に直接渡すことなどできるはずもなかった。

香月蛍も自分の言葉がいかに荒唐無稽かを知っていたが、すでに口に出してしまった以上、続けるしかなかった。「事実はこうなんです。信じてくれなくても仕方ありません」

藤丸詩織は香月蛍を見て軽く笑い、次の瞬間には顔から笑みが消え、冷たい声で言った。「私たちには調べることができます。それに、あなたは一人で東京に来たはずですよね」

香月蛍は藤丸詩織の言葉に脅威を感じ、尻もちをついてしまった。

彼女は今、心の底から後悔していた。もしこの人が藤丸さんの社長だと知っていれば、絶対に関わるようなことはしなかったし、あのお金も受け取らなかっただろう。

これは全て藤丸明彦のせいだ。もし彼が藤丸詩織の身分を教えてくれていれば、こんな事態にはならなかったはずだ。

藤丸詩織は香月蛍をしばらく見つめた後、視線を外し、ゆっくりと言った。「今回は見逃してあげます。帰りなさい」

香月蛍は藤丸詩織の言葉を聞くと、転げるように這いながらオフィスを出て行った。

橘譲は香月蛍の背中を見ながら、不思議そうに尋ねた。「詩織、この香月蛍は明らかに嘘をついているのに、なぜ行かせたんですか?」

藤丸詩織:「今は何も聞き出せないからです。一時的に彼女を行かせて、警戒が緩んだ時に、証拠を見つけ出せるでしょう」

橘譲は納得したように頷いた。

藤丸詩織は笑いながら続けた。「それに、今は私にもっと重要なことがあるんです」

橘譲は不思議そうに「何ですか?」と聞いた。

藤丸詩織は時計を見て、笑いながら言った。「時間になりました。美音を遊園地に連れて行かなければ」

藤丸美音の頭と体の傷はほぼ治っており、今は外出できる状態になっていた。

藤丸詩織は約束を守る人だったので、傷が治るとすぐに藤丸美音を連れて出かける予定を立てていた。

藤丸美音は遊園地の中に立ち、周りの景色を新鮮な目で見つめ、興奮して言った。「遊園地ってこんな感じなんだね!」

彼女は藤丸詩織の足にしがみつき、嬉しそうに言った。「私、今まで遊園地に来たことなかったの。お姉ちゃん、連れてきてくれてありがとう!」