桜井雨音は興奮して声を上げた。「行きます!」
彼女は続けて尋ねた。「友達も一緒に連れて行ってもいいですか?」
桜井蓮は目を閉じて深く息を吸い、歯を食いしばって答えた。「いいよ」
桜井雨音は急いでこのニュースを女友達たちに伝え、ファッションショーに誘った。
森村芙蓉は桜井雨音の手首を取り、羨ましそうに言った。「お兄さんが本当に優しいわね。羨ましいわ」
「そうよね、お兄さんが本当に優しいわね。私もこんなお兄さんが欲しいわ」
「私たちは夢見るしかないわね。だってこんな幸せは、雨音ちゃんにしか相応しくないもの」
……
桜井雨音は周りの人々のお世辞に、誇らしげに顎を上げて言った。「当たり前よ!」
桜井蓮は遠くから、榊蒼真と一緒に立っている藤丸詩織を見て、顔色が段々と暗くなっていった。
相良健司は桜井蓮の様子を見て、呆れて首を振った。彼には桜井社長の行動が益々理解できなくなっていた。見て不快になることを分かっているのに、なぜわざわざ近づくのか。
藤丸詩織は桜井蓮の視線に全く気付かず、今は一心に榊蒼真に注意を与えていた。「ショーの時は緊張しなくていいわ。普段通りでいいから」
榊蒼真は素直に応じた。「はい」
藤丸詩織はこちらに向かってくる神崎湊を見て、満足げに頷いた。この数日間の榊蒼真への訓練で、確かに進歩が見られた。彼女は笑顔で励ました。「ショーの時、頑張ってね」
神崎湊は頷き、決意を込めて言った。「ご安心ください、藤丸さん。私は必ず全力を尽くします」
神崎湊は前の芸能事務所と契約してから、こんなに大きな舞台に立つのは初めてだった。彼はこの貴重な機会を得られたことを深く理解し、しっかりと実力を見せようと決意を固めた。
桜井蓮は、また一人の男が藤丸詩織の側に寄り、彼女が笑顔で会話をする様子を見て、表情が更に悪化し、体までふらつき始めた。
これらの男たちの誰が自分に匹敵できるというのか?
藤丸詩織は本当に浅はかだ。目も節穴だ!
桜井蓮は藤丸詩織が以前、心も目も自分だけを見ていた姿を思い出し、今では誰でも良いという様子を見て、たちまち胸が詰まった。
彼は無意識に藤丸詩織の方へ歩き出そうとしたが、相良健司に止められた。
相良健司は震える声で言った。「社長、藤丸さんのいるあそこは関係者エリアです。私たちは入れません」