356 火事

桜井雨音は歯を食いしばって言った。「それは彼女の表面的な姿に過ぎないわ。実際には彼女はとても意地悪で、残酷で、そして...」

桜井雨音がまだ言葉を終えないうちに、背後から藤丸詩織の声が聞こえた。

藤丸詩織:「まさか、私のことをこんなに悪く言う人がいるとは思わなかったわ」

桜井雨音は目の前に現れた藤丸詩織を見て、表情が凍りついた。我に返って視線を逸らしながら強がって言った。「あなたは今、私がなぜあなたを嫌いなのか考えて、改めるべきよ!」

藤丸詩織は怒りを抑えている榊蒼真を制しながら、桜井雨音を冷ややかに見つめて言った。「じゃあ、まず私を嫌いな理由を言ってみて。だって、あなたが言わなければ、私も何を改めればいいのか分からないでしょう」

桜井雨音は藤丸詩織が怒って自分を殴るだろうと思い、すでに桜井蓮の前で泣きつく準備をしていたが、藤丸詩織はそうはしなかった。

しかし、藤丸詩織を嫌いな理由を言うとなると...

桜井雨音は少し考えた後、口を開いたものの一言も発することができず、顔色も悪くなっていった。

藤丸詩織が代わりに言った。「私がもう以前のようにあなたにいじめられることなく、反撃できるようになったから嫌いなの?」

桜井雨音は森村芙蓉の複雑な視線を感じ、顔色が悪くなり、歯を食いしばって言った。「私、私は違う、私は...」

藤丸詩織は桜井雨音の話を聞く時間がなかった。突然、焦げ臭い匂いがしたのだ。

藤丸詩織の表情が厳しくなった。「火事のようね。急いで知らせを出して、専門家を呼んで消火してもらいましょう!」

すぐに火事の知らせは全員に伝わり、みんなホテルに向かって走り出した。

「どうして火事になったの?ここの防火対策はどうなってるの?」

「分からないわ。ただ、出火点は楽屋の方だって聞いただけ」

「もう話してる場合じゃないわ、早く避難しましょう!」

桜井蓮は藤丸詩織がさっき楽屋の方に向かったことを思い出し、出口に向かう足を止めて、急いで楽屋の方へ走り出した。

相良健司:「桜井社長、こちらです...桜井社長、桜井社長、どこに行かれたんですか?」

桜井蓮は躊躇なく火の中の楽屋に飛び込み、叫び続けた。「詩織!詩織!中にいるのか?」

周りは静まり返り、誰も答えない。ただ燃え盛る火の音だけが響いていた。