桜井雨音は病室に入ると、水野月奈が怒っている様子を目にした。手に持っていたバッグを脇に置き、笑いながら声をかけた。「どうして一人でいるの?自分で自分を怒らせているの?」
水野月奈は桜井雨音を見て、結婚式の後の軽蔑的な態度を思い出し、冷たい声で尋ねた。「何しに来たの?」
桜井雨音は水野月奈を見つめ、淡々と言った。「私に対するその態度、気に入らないわ」
水野月奈はいい加減に応えた。「ふーん」
桜井雨音は水野月奈の態度に不満を感じ、怒りかけたが、ある事を思い出し、口角を上げて言った。「自分に対して随分厳しいのね。お兄さんの信頼を得るために、自分で仕組んだ火事で自分から怪我をするなんて」
水野月奈は慌てた表情を見せ、すぐに落ち着きを取り戻して言った。「何を言っているのか分からないわ」
桜井雨音は表情を変えずに続けた。「前回もお兄さんを救ったのはあなたじゃなくて、他人のふりをしていたんでしょう」
桜井雨音は水野月奈の驚いた表情を見て、満足げに笑みを浮かべて言った。「どうやってこの事を知ったのか教えてあげるわ。あの日、あなたがレストランで誰かと話していた時、私はちょうど入り口を通りかかって、あなたの話を聞いてしまったの」
水野月奈は心が乱れ、震える声で尋ねた。「何がしたいの?」
桜井雨音は腕を組み、得意げに言った。「今回来たのは、あなたに言いたいことがあるからよ。他人を馬鹿にしないで。私たち桜井家は一度だまされたけど、二度とだまされることはないわ。私の言葉をよく覚えておいて。それと、これからはお兄さんに近づかないで!」
水野月奈は内心ほっとした。どうやら桜井雨音というバカは桜井蓮にこの事を話すつもりはないようだ。それならば、事は簡単に済む。
水野月奈はへつらうような笑みを浮かべ、謝った。「私が悪かったです。自分の能力の低さを認識しています。桜井雨音さんのような賢い方には及びません。ご安心ください。回復したら、もう桜井蓮さんには近づきません」
桜井雨音は満足げに頷き、水野月奈の様子を見て、思わず嫌悪感を示してため息をついた。
こんな女性を義姉にふさわしいと思っていた自分が信じられない。一緒に外出すれば面目が立つと思っていたけど、実際は恥ずかしいだけだった。