377 あなたに関係ない

藤丸詩織は長谷正樹の話を聞いて、口を開いた。「もう向かっているわ、すぐに着くから」

長谷正樹は藤丸詩織の言葉を聞いて、心の底でほっと安堵した。

誰よりも榊蒼真が藤丸詩織の言うことを聞くということを、彼はよく分かっていた。きっと彼女が来れば止めてくれるはずだ。

藤丸詩織の動きは早く、10分も経たないうちに到着した。

急いで来たため、適当に服を着ただけだったが、彼女から漂う独特の雰囲気は、多くの会社の意思決定者たちの目を引いていた。

彼らは思わず彼女を見つめ、話しかけるタイミングを窺っていた。

長谷正樹は藤丸詩織を見つけると、目を輝かせ、急いで声をかけた。「藤丸さん、こちらです」

相良健司もその声を聞いて、嬉しそうに顔を上げ、救世主が来たと心の中で感謝した。

藤丸詩織は榊蒼真の側に行き、まだ飲もうとする彼の動きを止めて、声をかけた。「蒼真」

頬を赤らめた榊蒼真は、振り向いて藤丸詩織を見ると、思わず彼女を抱きしめて小声で呼んだ。「お姉さん」

藤丸詩織は仕方なく溜息をつき、優しく言った。「どうしてこんなに飲むの?帰りましょう、家まで送るわ」

榊蒼真は素直に頷いて答えた。「うん」

桜井蓮は藤丸詩織を見て、思わず目が揺らぎ、慌てて顔を逸らした。

しかし彼女が全く自分に注目していないことに気付くと、心の中で不快感を覚え、彼女に向かって冷たい声で呼びかけた。「藤丸」

藤丸詩織は桜井蓮に構う気はなく、彼の声を聞いても足を止めることなく、そのまま外へ向かって歩き続けた。

桜井蓮は足元がふらつきながら藤丸詩織の前に走り出て、手を伸ばして彼女を遮り、声の中に思わず甘えが混じった。「僕も酔っているんだ。本当に僕のことは放っておくの?」

藤丸詩織は桜井蓮を一瞥し、冷淡に言った。「あなたと私に何の関係があるの?なぜあなたの面倒を見なければならないの?それに、アシスタントもいるでしょう。相良さんがここにいるから、彼に送ってもらえばいいわ」

相良健司は名前を出されて体が震えたが、桜井蓮が彼を見なかったことにほっとした。

桜井蓮の瞳は墨のように黒かった。

彼は俯いて冷たい声で言った。「この榊蒼真はろくな奴じゃない。表面上はお姉さんと呼んでいるけど、あなたの知らないところでは『詩織』と呼んでいる」