蘇我紬はまるで台所の時限爆弾だった!
彼女が台所に入るのは、台所を爆破するのと変わらなかった。
レシピを見ながらでも慌てふためいて鍋を焦がし、ガスコンロの使い方が分からずに壊し、電気の火加減も調整できず、炒め物で火が出たら鍋を投げ出して逃げ出す始末!
オーブンに至っては目も当てられない。
彼女は紛れもない料理音痴だった。
それでも彼女は、一つのことを何十回と繰り返し、十数台のオーブンをダメにしながら、スポンジケーキだけは完璧に作れるようになったのだ。
心を込めてすべての準備を整えた。
しかし迎えたのは離婚届だった。
家に戻ると、トレンド検索を見て深いため息をつき、冷蔵庫からケーキを取り出して、ぼんやりと見つめた。
唇に歯形がくっきりと残るほど噛みしめながら迷っているところに、影山瑛志の秘書である篠原暁(しのはら あかつき)が別荘に影山瑛志に書類を取りに来た。
彼女は急いでケーキを差し出し、「よかったら、ついでに影山さんにケーキを影山瑛志に届けてくれませんか?明日になったら美味しくなくなっちゃうから」と尋ねた。
すべてが水の泡になってしまった。
篠原暁は一瞬呆然とした。
篠原暁は残念そうに言った。「影山社長は甘いものは召し上がらないとおっしゃっていますが、若奥様がお好きだということは覚えていらっしゃって、定期的に甘いものをお持ちするように言われているんです」
「これは結婚記念日のプレゼントとして用意したものなんです…」の一つだった。
篠原暁は心苦しそうだったが、このケーキは絶対に持って行けなかった。
さもなければ叱られるのは間違いなく彼自身だろう。
篠原暁は断固として首を振り、振り返ることなく立ち去った。
蘇我紬の頬は真っ赤になり、自分が滑稽なピエロのように思えて仕方なかった。きっと彼の周囲の人間は、二人が形だけの夫婦だと知っていたのだろう。それなのに彼女は、分かっていながら踏み込んでしまった。
しかし、予告もなく落ちる涙は彼女の本心を隠せなかった。
彼女は丹精込めて作ったケーキをテーブルに置いた。片側には、二周年と一周年の祝賀の比較動画があり、細かい表情の分析まで行われ、一つ一つ検証された結果、最終的に関係不和の疑いありと結論付けられていた。
やはり。
ほとんどが彼女側の問題で、分析されたのも主に彼女だった。
影山瑛志は正しかった。演技をしていたのは彼の過ちではない。
ある人を愛せないことに何の罪があるだろうか?
朝夕を共にしていても何の意味があるのか?
彼女は手でクリームを一掬い、口に入れた。
続けてもう一掬い。
口の周りがクリームだらけになった。
涙が溢れ出した。
もう耐えられなかった。
声にならない叫びを堪えながら、痛みに歪んだ口元で泣き崩れた。その姿は、単なる「悲しみ」という言葉では足りなかった。
クリームを次々と口に詰め込み、漏れそうな泣き声を押し殺した。
彼女はクリームアレルギーだった。
好きなのは、子供の頃に母親が食べさせてくれなかったから。子供心に、甘いものを食べられることが最大の幸せだと思っていた。
大人になってから、クリームアレルギーだと分かった。
でも不思議なことに牛乳は飲めた。時々アレルギー反応が出ることもあったが、原因は特定できず、欲しがると母親は牛乳を飲ませてくれた。
好きだと言ったのは、手に入らないからに過ぎなかった。
内臓から込み上げてくる吐き気が襲ってきた!
トイレに駆け込み、激しい嘔吐で顔色が蒼白になり、体力を使い果たして床に倒れ込んだ。
突然、携帯の着信音が鳴り響いた。
影山瑛志からだった。
蘇我紬は深く息を吸い、蛇口をひねって冷水で顔を濡らし、濡れた手のまま電話に出た。影山瑛志の声を聞くと、徐々に落ち着きを取り戻した。
「寝たか?」
「まだです」
「ベッドサイドテーブルに約束通り新しい結婚指輪を用意しておいた」
蘇我紬は苦笑いを浮かべ、感情のない声で「はい、分かりました」と答えた。
「ああ、今夜は用事がある。先に寝ていろ。待つ必要はない」
「影山瑛志、電話終わった?キャンドルディナーのキャンドル、もう全部灯してあるわ。あとはあなたが来るだけよ…」
影山瑛志は慌ただしい口調で「分かった、早く寝ろ」と言った。
「ツーツーツー…」
蘇我紬は冷たい息を呑み込み、無理やり気持ちを落ち着かせた。自分から踏み出したことが、こんなにも虚しいとは。
向こうの女性は他でもない、白川蓮だった。
彼女は影山瑛志の携帯で、この女性の動画を見たことがある。影山瑛志は別のフォルダに保存されていた。
結婚二周年記念日に、彼は他の女性とキャンドルディナーを共にしている。
皮肉だ!
皮肉で力が抜ける。
寝室に戻ると、確かにベッドサイドテーブルに白い高級なギフトボックスが置かれていたが、蘇我紬は眉をひそめた。以前の指輪とは、箱の形も雰囲気もまったく違っていた。
あの結婚指輪は影山瑛志の祖父から贈られたもので、この二年間ずっと身につけていた。長く使っているうちに変形してしまったので、影山瑛志に修理を頼んでいたのだ。
彼女は感情を抑えながら、その新しいギフトボックスを手に取った。
開けた。
見知らぬ指輪。
華美で、目がくらむほどだった。