電話が繋がると、夏川澄花はすぐに役になりきり、先ほどまでの嬉しそうな興奮した表情は消え、声のトーンは沈み、目には演技の色が宿っていた。
白川蓮がここにいなくても、彼女は冷たい雰囲気を全開にしていた。
「白川蓮、久しぶりね。まさか私が紬のためにここまでするとは思わなかったでしょう」
白川蓮は縛り上げられ、目の前には携帯電話が置かれていた。背を向けられた状態で、そこから声が聞こえてきた。
声は夏川澄花のものだと、白川蓮にはわかった。
白川蓮は周りを見回していた。怪獣の被り物をつけた男が一人、体型がわからないほどの大きな服を着ているだけで、他には誰もいなかった。
その男は携帯電話をそう置くと、座ったまま何もせず、話しもしなかった。
夏川澄花の声を聞いて、白川蓮は理解した。自分を誘拐したのは夏川澄花だったのだ。