電話が繋がると、夏川澄花はすぐに役になりきり、先ほどまでの嬉しそうな興奮した表情は消え、声のトーンは沈み、目には演技の色が宿っていた。
白川蓮がここにいなくても、彼女は冷たい雰囲気を全開にしていた。
「白川蓮、久しぶりね。まさか私が紬のためにここまでするとは思わなかったでしょう」
白川蓮は縛り上げられ、目の前には携帯電話が置かれていた。背を向けられた状態で、そこから声が聞こえてきた。
声は夏川澄花のものだと、白川蓮にはわかった。
白川蓮は周りを見回していた。怪獣の被り物をつけた男が一人、体型がわからないほどの大きな服を着ているだけで、他には誰もいなかった。
その男は携帯電話をそう置くと、座ったまま何もせず、話しもしなかった。
夏川澄花の声を聞いて、白川蓮は理解した。自分を誘拐したのは夏川澄花だったのだ。
予想外のことだった。
白川蓮は落ち着いて言った。「私を誘拐した目的は何?」
夏川澄花は軽く笑って、「もちろんあなたを懲らしめるためよ。影山瑛志が止めて、あなたを守らなければ、蘇我紬を誘拐した後、無事でいられると思った?」
「白川蓮、私はこの機会をずっと待っていたの。今、紬は行方不明で、見つけられない。ファンの力も借りたのに、まだ音沙汰なしよ」
「ねえ、白川蓮、この恨みをあなたに晴らさないで、誰に晴らすというの?」
夏川澄花の言葉には怒りが溢れていて、まるで本当に蘇我紬が見つからないかのようだった。
夏川澄花の向かいに座っている蘇我紬も、聞いていて信じそうになった。
やはり、役者の演技力は一般人とは違い、感情移入が非常に早かった。
案の定、向こうの白川蓮は声を震わせながら言った。「私に何をするつもり?蘇我紬は無事じゃない?私は何もしていない…」
「暴行も私じゃない、なぜ私を責めるの?あの男が手加減を知らなかっただけで、私には全く関係ないわ」
白川蓮は慌てた様子で、恐怖を必死に抑えているのが声から伝わってきた。
夏川澄花は意に介さず、「あなたが首謀者よ、白川蓮。紬が全部話してくれたわ。紬の言うことなら何でも信じる。あの時のことは許すとして、まさか紬に薬まで使うなんて、白川蓮、本当に死にたいのね」